第七話 自分の心の癖に気がつく 「ねじれ女子の婚活物語」〜38歳OL マリエさんの場合
(私は、何を 信じていたんだろう?)
マリエさんは車の中で号泣しながら、どうにかアパートの駐車場につき、急いで部屋に戻りました。
マリエさんの顔は涙で化粧がとれてぐしゃぐしゃになっていました。
部屋のドアをあけ、スニーカーを脱ぎ、マリエさんはリビングの床に座り込みました。
頭の中ではさっき見たタカシと横にいた女性が、まだぐるぐると回っています。
(可愛い人だったな。でもタカシは、仕事が忙しくなるから、なかなか会うことも難しくなってくるから、一度別れよう って言ったんじゃなかったの?あの言葉は嘘だったの?)
窓の外に目をやると、夕陽でオレンジ色に染まった空がもの悲しげに見えました。
「嘘だったんだよ。ずるい男の嘘だったんだよ」
頭の中で声が響きました。
横をみると、黒うさぎのりーくんがちょこんと座っていました。
「仕事が忙しいから、一度別れようって言ったんだよ。」
マリエさんは小さな声で言いました。
「仕事が忙しいから別れようって、男の人が本気で言うと思ってるの?」
黒うさぎのリーくんの声は冷静です。
「じゃあ、何で別れたいって言ったの?私たち、上手くやってきたはずだったのよ」
マリエさんの瞳からは大粒の涙がボロボロと落ちてきていました。
(上手くやってきた、はずだった、のよ)
デートは1時間前にドタキャンされることもあった。
食事はマリエさんの希望を聞かずにラーメンか居酒屋かファミリーレストラン。
同い年だったから割り勘。
電話しても出ないことがあったり、ラインは、1日既読にならないときもあった。
引越しのときは仕事があるとかで手伝いに来てくれなかった。
家で食事をしていても、電話がかかってくると外に出て話していることがあった。
そのほか‥小さく傷ついたことは数知れずあった。
でも、マリエさんは嫌われたくなかったから、タカシに対して抗議することはなかった。
いつもニコニコした良い人、とタカシに思ってもらいたかった。
「タカシくんは、別に好きな人がいたんだよ。それが言えなくて、仕事のせいにしたんだよ」
「別れた時に、好きな人がいたっていうの?」
「そうだよ。同時進行だったのかもしれないね。タカシくんはそういう人だった、っていうことだよ。
なんか、ひどいことを聞くようだけど‥
マリエさんは、タカシくんといて、本当に楽しかったの?」
黒うさぎのリーくんはマリエさんの痛いところを突いてきました。
「‥‥」
マリエさんは何も言えませんでした。
「先に進みたくない病の女性は、昔の思い出にすがろうとする。そして嫌なことが多かった恋愛なのに、いいところだけを思い出して、嫌だったところに蓋をしてしまう。
嫌だったところこそ、次の恋愛に向かう前に自分で自覚をしないといけないところなんだ。
自覚をしないでまた恋愛をしても、また同じようなことを繰り返してしまう傾向がある。」
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
マリエさんは泣きながらリーくんに聞きました。
「僕が提案したいことは、マリエさんの場合は結婚相談所という第三者に入ってもらうこと。もし、マリエさんがまだ20代で、いろんな恋愛を経験するということが可能な年齢なら、僕はここにはいないよ。
結婚相談所ってね、単に誰でもいいからお見合いさせるところばっかりじゃないんだよ。会員さんとよく話して、その会員さんの特徴を踏まえて、結婚生活がうまくいきそうな二人を引き合わす、肥えた目をも持ったカウンセラーがいるところも多くあるんだよ。
マリエさんは、自分では気がつかない癖があって、それが付き合いを深められない原因でもある。そこを助けてくれるのも結婚相談所のカウンセラーなんだよ」
「私の癖って、どんなところ?」
マリエさんはリーくんに聞きました。
リーくんは大きな瞳でマリエさんをじっと見つめ
「それは嫌だ、とか、私は悲しい とか、相手に言ったことないでしょ?
嫌われたくないって、いつも思ってる。」
「そうよ、言えない。嫌われるくらいだったら、ちょっとぐらい我慢している方がいいもん。
それに恋愛ハウツー本にも、機嫌の良い女子の方が好かれるって書いてあったし」
「恋愛ハウツー本に載ってることで、関係が深められると思ってるの?
そもそも、深く相手と向き合えないんだったら、どんな恋愛だって続けられないよ。
向き合って、話をして、相手に自分を受け入れてもらって、自分も相手を受け入れて、ってことを失敗しながらやり続けないと、お互い心なんか開けないじゃない。
マリエさんは今までの方向と向きを変えないとまた同じことが起こるってどこかでわかってるよね。
結婚が向く相性もあるんだよ。
だから、今までとは違うような相手を選んでもらう、っていうのも一つの手なんだよ。」
まるで結婚相談所のカウンセラーみたいだなあ、と思いながら、マリエさんはりーくんに尋ねました。
涙はもう止まっていました。