新しい生活が始まる予感

散歩していたら、住宅街で音楽が聞こえてきた。漏れた音ではなくてスピーカーを使って周囲に聞かせるように意図されている様子。戸建住宅のベランダでおっさんがキーボードを弾いてた。左手の親指と小指を開いてあっちこっちと押さえてる。歌謡曲の間奏みたいなメロディーを酔ったように続けてる。

これがもし自宅の近所だったらと想像してしまう。かっとして心臓が強く動いて身体が攻撃体制になる。首の後ろ、あご、耳がこわばって、思考がとがる。許せない、何かを投げてぶつけてやりたい。引っつかんで振りまわして転ばせて、手足を踏みつけて、顔を殴りつけ鼻を折ってやる。目がくらむほど興奮する。

そんなことを考えながらその家の横を通り過ぎる。手が震える。はやく落ち着かないとあとで頭が痛くなる。穏当な方法をシミュレーションしてみる。相手との距離を縮めてしまうことが解決策だろう。

「やあ、おじさん気持ちよさそうだね。それ、僕のこと気持ちよくしてくれようとして聞かせてくれてるの?」

不十分。まだいやみが残ってる。穏やかでも朗らかでもない。これは僕の道じゃない。面倒だ。誰にもバレないような方法で痛めつける方法はないだろうか、エアガンで狙撃とか。また興奮してしまう。

歩き続けて音が聞こえないくらい離れた。頭のなかでおじさんといろんなパターンで話していたらおじさんとの距離も縮まって、むかつかなくなってきた。頭の片隅でむかつきはくすぶっているけど、そこへ目を向けなければそのうち消える。

いつかいまの生活を変えたいと思ったら、準備をしてあの家に行けばいい。経済、社会、法の問題や、人との縁、いろんなものを劇的に変えられるものがいつでも自分には用意されている。






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