【ちょっと昔の世界一周】 #38 《ちょっと昔の日本人宿》
イスタンブールの日本人宿〝Tree of Life〟
想像通りの日本人宿との出会いに、いささか戸惑いもあったが私はそれ以上の好奇心に包まれていた。
もしも旅を始めたばかりの私だったら
『さっきの夫婦の教えてくれた宿に行こうかな…』
と思っていたであろう。
この世界観を楽しんでいる自分の成長を喜びながらも冷静に次の目的を考えていた。
基本的には自由の旅だが、イスタンブールで唯一やっておかなければいけないことがある。
それは、、、
世界一周航空券のフライト変更
本来ならば、ロイヤルヨルダン航空に乗りイスタンブール〜カイロ(エジプト)の予定だったが、アテネでの一騒動があり時間ができたことで【ペトラ遺跡】を観るためにヨルダンに行きたくなった。
僅かな時間だったアテネでの滞在中にネット屋で調べた情報では、ロイヤルヨルダン航空を使いイスタンブール〜アンマン(ヨルダン)〜カイロ(エジプト)というフライトがあるようだ。
旅行会社への電話では、フライトは増えるが航空券の範囲内、さらに同じ航空会社なので問題はないとのこと。
要はこの内容をイスタンブールのロイヤルヨルダン航空のオフィスで伝えればいい。(当然日本語ではないが…)
電話では深く考えずにわかりました!と答えたが、よくよく考えればオフィスの場所が分からない。
こういう時に
『まぁ、なんとかなるか』
と思えるようになったのも旅人としてのレベルアップであろう。
なにせここは、
Tree of Life (通称ツリー)
ここにいる人たちは歴戦の旅人。
この人たちの持っている情報はすごい!、、、はず…
早速、動き出そうと思ったがお腹が空いていることを思い出した。
なので、最初の質問は
「すいません、この辺で飯食えたり買い物できるとこありますか?」
すると、ソファにいる中の一人が
「坂を降りてったとこにカフェあるよ。結構いい店だから行ってみな!」
とすぐに教えてくれた。
礼を言い、街歩きセットを持ち外に出る。
言われた通りに進み、すぐに店は見つかった。
値段もそこまで高くないこともあり、サンドイッチらしきものとコーヒーを頼む。
街並みを眺めていると、素敵な笑顔で対応も丁寧な女性店員の人が注文品を持ってきてくれた。
『トルコに来てから、良い人が多いなぁ〜』
僅かな時間なのだが、トルコは合うかもしれないと思いながら食事を済ませ、オフィスの場所を知るためにツリーへと戻る。
チャイムを押し、上を見ると目が合う。
鍵の開く音がし、ドアを開け再びリビングへと上っていく。
ソファに座っているメンバーは先ほどとは少し変わっている。
カフェの場所を教えてくれた人に挨拶をし、流れでオフィスのことを聞く。
すると、隣にいた人が
「多分そういうオフィス関係は〝新市街〟にあんじゃない」
そう教えてくれて、棚に置いてある紙を手に取る。
その紙は大使館や旅行会社、航空会社等の住所が書いてある。
気づけば何人かが場所・行き方を説明してくれてくれる。
これが日本人宿、、、
素晴らしい!!
困っている人がいたら自然と助け合う。
言葉にすれば当然のことだが、自然にそうなるとは素晴らしい空間。
教えてもらったことをメモに書き留め、さっさとオフィスに行って用を済ませようと席を立つと、リビングに一人の男性がやってきた。
なんだろう…
見るからに〝この人は数年旅をしている!〟
そう感じる雰囲気である。
「タカさん今日は起きんの早くない!?」
そう言われたタカさんは、あくびをしながらキッチンへと行き、冷蔵庫に入れてあるジュースを飲みながらこちらへとやってくる。
「今日こそは外に出る!そう思って起きたんだけど、どうしようかな〜」
そう言いながらソファに腰掛ける。
「そう言って何日引きこもってんの〜?何回もそのセリフ聞いてるよ(笑)」
「自分でもわかんないわ〜(笑)」
なかなかの会話である…
「そういえばタカさん、あの子に会いに行ってみたら?さっきカフェ行った人いるから聞いてみれば?」
そう言って私の方をみんなが見る。
あの子…?
そう思っていると、タカさんが話しかけてきた。
「ここ降りたとこのカフェに可愛い子いた?笑顔が素敵な子なんだけど!」
多分さっきの店員さんだろう。
特徴的にその子だと思う人がいたことを伝えると
「よし!やる気でた!俺は今日外に出る!」
「そう言って、どうせ出ないよ(笑)」
「それはある(笑)」
なかなかの会話。
しまいにはタカさんが再び口を開く。
「俺もそう思う!」
これがツリーの日常。
間違いない、この宿
好きだ!
そんな会話をし、タカさんの行動は気になったが私を自分の用事を済ませるために先に外に出た。
*****
トラムを使って移動をし、大きなトラブルもなくフライトの変更もすることができた。
※詳細はこちら→#38.1 おまけ
ついでに新市街も観光しようかと思ったが、昨夜の列車で眠れたとはいえ少し疲れもあり、さらにタカさんの結果も気になったので一度ツリーへと戻ることにした。
玄関のチャイムを押すとすぐに鍵が開く。
といことはリビングに誰かはいるのだろう。
階段を上りリビングに入ると、予想通りタカさんがくつろいでいた。
「どうも〜、カフェ行きました?」
そう声をかけると
「いや、今日はやめたわ〜。買い物も頼んだし、今日も引きこもりです!」
、、、、、
『これが話には聞いた〝沈没〟か…』
ここまで典型的な沈没をしている人を目の前にすると、もはや尊敬の念も湧いてくる。
その分、タカさんの話は面白いしタメになることもたくさんあった。
時々日本に帰りながら数年旅をしている。
ということはそれだけ様々なことを経験している。
経験豊富だからといって偉ぶるわけでもなく、楽しい話として色々話してくれて次第に人も増えみんなで話していると、あっという間に時間が過ぎる。
これは楽しい時間である。
こうなるのなら沈没も悪くはない、むしろいいものだろう。
とはいえ、私も自分の目で見に行きたい気持ちもある。
一旦席を立とうとすると、ちょうどベルが鳴る。
やって来たのは、日本人の女性と白人の男性。
カップルのようで、女性の方がここに泊まっている人と知り合いで遊びに来たようだ。
二人と初対面の人たちは挨拶がてら自己紹介をしている。
もちろん私もそうだ。
私の名前は〝ヒロノブ〟
なので、自己紹介では〝ヒロ〟と名乗っていた。
女性と先に挨拶をする。
「どうも。さっきここに来たヒロです。よろしく!」
いつも通りの挨拶。
次は彼氏の方である。
「Hi ,,, I'm Hiro !!」
しかし、発音が悪いせいであろう、なかなかヒロを聞き取ってもらない。
何度か言うも伝わらず、とっさに
「I'm Nobu !! Nooooo Booooo !!」
無事に伝わった。
世界共通?の〝No〟と〝Boo〟の組み合わせ(正確には〝Bu〟だが)は間違いなかった。
「Nobu !! OK !!」
彼氏と挨拶を済ませハイタッチをする。
その場にいた人たちの中にも、名前を名乗っていなかった人がいたこともありそれ以降、自己紹介では〝ノブ〟と名乗ることにした。
二人とも少し会話をしたが、このままでは今日の外出が流れてしまう。そう思い、未練を残しつつ階段を降りて行った。
ドアを開け外に出る。
外の空気はツリーの中とは違ったものだった。
「よし、行くか」
特に当てもなく私は歩き始めた。