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映画『ダンスウィズミー』に見る和製ミュージカルのハードルの高さ

シネ・ミュージカル好きの人間としては今年抑えておかなければならないワーナー映画『ダンスウィズミー』をJAL機内で鑑賞。

あらすじはこんな感じ

大企業で働く静香(三吉彩花)は、休日に小学生の姪っ子を預かり、遊園地でいかがわしい催眠術師マーチン上田(宝田明)の小屋へ入る。姪っ子の学芸会でのミュージカルをうまく演じたいという願いを聞いているうちに催眠にかかってしまった静香。それ以来、音楽がかかると自然に身体が反応し、歌い踊りだしてしまう始末。精神科にかかると、催眠術師に催眠を解いてもらわないといけないと言われ、エセ催眠術師マーチン上田を捜す旅に出る。

Reference: YouTube

映画の中身はこんな感じ(ネタバレ含むレビュー)

催眠術にかかってからの静香は、街中にあふれる音楽に敏感に反応してしまい歌って踊りまくる。主演の三吉彩花は美人でスラリと伸びた手足を駆使して相当頑張ってて拍手モノである。だが、いかんせんミュージカルの主演を張ったのは初めてで荷が重い。ならば、脇を堅める出演陣が、歌って踊れる人間ならいいのだが、残念ながらそうではない。

エセ催眠術師役の宝田明は、帝国劇場のミュージカル『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授を何度も演じているようなレジェンドなので、画面に登場するだけで、昭和世代のファンはうれしくなるのだが。

問題はそこからで、催眠術師を共に追っかけるコメディエンヌとしての役回りのやしろ優が、もともとソング・アンド・ダンスができる人ではないので、そこが残念なのだ。彼女が、中国人相手のカラオケのシーンで、歌と踊りを(しっかりした振付けで)演じ切っていたら、今後の彼女のキャリアは違ったものだったと思う。だが、結局普通にカラオケ歌うだけの(正直言って)宴会芸なので、ミュージカルとは言い難い場面になってしまっている。
そう、つまり、この映画はミュージカル映画と呼ばないで昭和時代にあった「歌謡映画」と呼んでしまっていいのじゃないか?と思うくらいの作りなのだ。ポップスのナツメロを主人公たちが楽しそうに歌うだけ。
「夢の中へ」や、ギター弾きのchayと歌う「年下の男の子」、「ウェディングベル」なんて、令和の時代に70〜80年代の曲を喜々として歌う場面は、昭和世代のぼくでもちょっと白けてしまった。

高級レストランでハッチャキになっちゃうシーンの歌も山本リンダの「狙い打ち」(70年代)だし、ラスト近くの「ドリーム・ガールズ」に似せた劇場シーンも、ミュージカル映画に必要なクライマックスのプロダクション・ナンバーとは言いがたい。

これらは全て予算の関係なのか、後半は東京から北上するロードムービーで、女性2人のバディものに変わる。それと共にどんどん貧乏臭いものになる。ぼくが思うにミュージカルはセット撮影が向いていて、ロケでやるには一カ所に限定して物語を進めた方がうまく行くと思う。『ウエストサイド物語』はNY、『マイ・フェア・レディ』はロンドン、『サウンド・オブ・ミュージック』はウィーン、『雨に唄えば』『ラ・ラ・ランド』はハリウッド、『ロシュフォールの恋人たち』はフランス・ロシュフォールなど。それらは元々ブロードウェイの舞台の映画化という理由もあるが、歌と踊りを見せるための方法として最適だと思う。この作品はだから散漫な印象になってしまった。

前半の東京のシーンで、ミュージカルとして終わってしまった感があったのが残念。『ウォーターボーイズ』『スイング・ガールズ』等、音楽をうまく使ったコメディが得意の矢口史靖監督作だったので期待したが、矢口監督をもってしても和製ミュージカルはうまくいかないという事例になってしまった。

和製シネ・ミュージカルの名作たち

その昔はオペレッタ喜劇『狸御殿』などもあったが、ぼくが知ってる限り初めての本格的和製ミュージカルは、須川栄三監督の『君も出世ができる』(‘64)。この作品は全曲オリジナルの堂々たるミュージカル映画。主演はフランキー堺、高島忠夫、雪村いずみ。今観ても面白い映画だが、興行的に惨敗したため、以後東宝でミュージカル映画は製作されなくなってしまったという曰く付きの作品。

(エセ催眠術師役の)宝田明主演『嵐を呼ぶ楽団』(‘60)も素晴らしい出来の音楽映画。まるで『グレン・ミラー物語』のような伝記物を観てる錯覚に陥る、ジャズに乗って流れるような作品。DVDになっていないのが惜しい。井上梅次監督の明朗な佳作。

周防正行監督『舞子はレディ』(‘14)は、京都・祇園を舞台に、舞子の成長を『マイ・フェア・レディ』風に描く。随所に「マイ・フェア・レディ」の歌詞を真似て日本語にしたオリジナルソングと踊りが入り、個人的にはお気に入りの作品である。

だが、上に書いた和製シネ・ミュージカルはどれも興行的には、成功したとは云えない。おそらく日本文化の中で、歴史的に舞台で演じるものの中で「歌って踊る」というものがなかったので、西洋文化であるミュージカルやオペレッタなどを日本人が演じることに「違和感」があるのだろう。日本の文化は歌舞伎や狂言、落語なのだ。

今回の『ダンス・ウィズ・ミー』でも、そのミュージカルに”照れる“日本人に違和感なく見せるため、催眠術にかかったという設定にしたことは上手いと思う。

だが、辛口ながら、日本人も映画やブロードウェイの舞台を生で見る機会も増え、目が肥えてきている。その人たちを納得させるためには「頑張ってる」ではなく、世界に出しても恥ずかしくない圧倒的な歌と踊りを凄い熱量で見せることが必要ではないか。そうすれば興行的にも成功するのではと思う。そんな「ニッポン・ミュージカル」が近い将来できることを期待してマス。

てなことで。


最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!