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【懐かし洋画劇場】『スタア誕生』(54年)ジュディ・ガーランド主演の名作ミュージカル・ドラマ その光と影

『ジュディ 虹の彼方に』を観てから、ジュディ・ガーランドの名作の一本『スタア誕生』”A Star Is Born” (‘54) を再見したら、これがめっちゃ泣ける映画だった。若い時に観た時はなんともなかったのに、歳をとって涙腺が弱くなったのもあるが、ジュディ・ガーランドが本当に素晴らしく、とても感情移入できるメロ・ドラマだった。

ジュディ・ガーランド演じるエスターは、ジャズ・バンドと共に旅から旅への人生を送っていた。ある公演でハリウッドの大俳優ノーマン・メイン(ジェームズ・メイソン)と知り合い、彼の推薦でまたたく間にスターとなる。二人は結婚するが、ノーマンは落ち目になり、酒びたりに拍車がかかり、やがて入水自殺をしてしまう。

プロットは、その後もリメイクされた、バーブラ・ストライサンド版『スター誕生』(76年)、レディー・ガガ版『アリー/スター誕生』(18年)と変わらない。だが、この映画では主人公はシンガーではなく、映画スターなのだ。

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公開時ポスター 出典 Wikipedia(このオリジナル・ポスターはebayでUS$1,595で出品されている。2020/03/06現在)

ジュディ・ガーランドは、この映画で歌って踊って、泣かせる演技もして、キャリア・ベストで素晴らしいんだけど、アカデミー賞主演女優賞をもらえなかった。そのことが彼女自身の人生にも影を落とす。この映画は、そんなジュディの光と影となった作品として歴史に残るものとなっている。

プロデューサーはジュディの三人目の夫となったシドニー・ラフト。1950年にMGMをジュディが解雇されてから、ワーナー・ブラザーズでカムバックする、ある意味勝負をかけた映画だった。
共演に名優ジェームズ・メイソン。監督はのちに『マイ・フェア・レディ』を作る名匠ジョージ・キューカー。万全の布陣で挑んだ映画は、難局を乗り越え完成し、試写会で評論家の大絶賛を浴びる。

だが、ワーナーは、その完成品をズタズタにカットして公開してしまう。理由は、ジュディ・ガーランドがMGMの時と同じように、薬の影響で撮影が遅れに遅れたため、製作費が2倍に膨れ上がり、それを回収するためだった(それは撮影途中からシネマスコープにして撮り直したのも大きいのだが)。
オリジナル版は182分、劇場公開版は154分。オリジナルだと(途中休憩も入るので)1日に3回しか劇場にかけられない。公開版だと5回かけられるというのがワーナー側の言い分だった。

試写会でオリジナルを観た評論家たちは、「風と共に去りぬ」に匹敵する出来と絶賛し、ジュディ・ガーランドも名演技でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞に輝く。その年のアカデミー賞の主演女優賞も確実視されていたが、『喝采』のグレース・ケリーに取られてしまう。
アカデミー賞授賞式のNBCスタッフは、長男ジョーイの出産のため病室にいたジュディのところまで中継のカメラを持ち込んだが、ジュディはオスカーを受賞出来なかった。

ジュディ・ガーランドの心の痛手は大きかったようだ。仲の良かったサミー・デイビス・JRも自伝の中で、「なぜあの時ジュディが受賞できなかったかわからない。もし受賞していたら彼女の人生は大きく変わっていただろう」と書いている。
そして、(これだけが理由ではないが)信頼していた夫シドニー・ラフトと離婚。その後の彼女の人生は、『ジュディ 虹の彼方に』で描かれたとおりである。

予告編 Reference: YouTube

『スタア誕生』はその年のアカデミー賞で6部門でノミネートされたが、すべて〈シャット・アウト〉されてしまった。その理由は、アカデミー協会とワーナー・ブラザーズの確執が原因だったという。つまり高評価だったオリジナル版ではなくカット版を公開したワーナーに、アカデミー協会が怒っていたというのである。

結局ワーナーも製作費500万ドルに対して、興収610万ドルしかあげられなかった(損益分岐点は1,000万ドルだった)。ならば最初から完全版で公開して欲しかったと思うのはぼくだけではあるまい。

だが時を経て、ジュディ・ガーランドのファンや、映画歴史家たちが立ち上がった。彼らは、映画芸術科学アカデミーやワーナー映画の協力を取り付け、オリジナル版の復元作業にとりかかる。
そして1983年、新たに見つかったフーテージや、サウンドトラックをもとに176分の『スタア誕生』リストア・ヴァージョンが出来上がった。現在我々がビデオで鑑賞できるのは、このヴァージョンである。
音源だけあり、フィルムが見つからない箇所はスティル写真になったりして、いささか見づらいところもあるが(主に前半に多い。プロポーズのシーンがないのが特に残念)、後半はそんなところもなくシネマスコープも音もキレイで、ジュディ・ガーランドの至芸を堪能できる。

特に中盤にある「ボーン・イン・ア・トランク・メドレー」は、ジュディの実人生を一つのプロダクション・ナンバーにしたようなフーテージで、何度見ても本当にイイ。

『ジュディ 虹の彼方に』でジュディ・ガーランドのことに興味を持った人は、これを観れば、彼女のエンタテイナーとしての素晴らしさも、女優としての演技の巧さも両方わかると思う。ジュディ・ガーランドは「ドロシー」だけではないのである。お楽しみあれ。

てなことで。

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