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なぜアフリカを目指し始めたのか?
アセンティア・ホールディングスは2006年の設立当初から、海外を意識していた。それは代表の土屋晃が、学生のころから夢描いていた「世界を飛び回る事業」を意識してのことだった。会社設立の段階から当時の日本企業としては珍しく、英語のホームページ(日本語のページを翻訳したのではなく、海外向けに英語で作ったホームページ)を完備してあった。そこに日本のフランチャイズビジネス業界での経験や思いを記載していたので、創業当時から海外からの問い合わせが舞い込んできていた。
創業当時はアメリカのフランチャイズの日本の加盟店としての事業をするなどしていたのだが、転機が訪れるのが2008年にインドネシアから毎月のように舞い込んでくる相談メールであった。
「てんやをインドネシアでやりたい」というメールが頻繁に舞い込んでくる。英語でのメールのやり取りを数カ月続けたのちに土屋が決断したのは、一度会いに行こうということだった。
しつこい英文メールに対応して、あまりの熱心さに会いに行こうと決断し、シンガポール経由でジャカルタに飛んだ。
結果としてその決断が今日につながる海外フランチャイズの大きな一歩となる。
そのメールの主は、現在に至るまで15年の間に様々な日本のビジネスのインドネシアでのフランチャイズやライセンス展開のパートナーとなっていただき、ばりうまラーメン10店舗、ABCクッキングスタジオ4教室、OKUZONO(アッパー居酒屋)2店舗、TWELVE(中華)、CASA CUOMO(イタリアン)、AOYAMA BAKERY2店舗と20店舗を超えるマルチフランチャイジーに大成長を遂げている。
アセンティア・ホールディングス全体としては、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、台湾、香港・マカオ(当時)、中華人民共和国、オーストラリア、モンゴルなど、東南アジアを中心に、東アジアからオセアニアと海外フランチャイズを広げていた。広げたフランチャイズの業種は、ラーメンや居酒屋といった外食や食物販などフードビジネスが圧倒的だが、ネイルサロン等飲食以外のビジネスも日本企業の海外進出意欲を受けて展開している。
ただ現地のニーズの強いものが、店舗は一気に広がった。
そんなアセンティア・ホールディングスに私が合流したのは2015年の夏のことだった。
代表の土屋はシンガポール在住で、日本の中で海外を目指す企業を発掘したり、ベンチャー・リンク時代からお世話になっている会社をフォローすることを行っていた。
そんな中で会社案内を新たに作ることとなり、これまでの進出実績を地図上にプロットしていくと、当然のことながら、ASEAN中心にピンが立ち並び、アフリカと中南米には一つとしてピンが立っていなかった。
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アフリカを目指すきっかけは単純に、まだなんのアプローチもしていなかったからだ。
その当時から、「最後のフロンティア」というような表現でアフリカを論じる流れはあったし、人口動態から考えても将来はアフリカ市場が大きな存在感を持つことは想像できていた。
アフリカを意識して活動をしている中、JETROからの案内で「アフリカセミナー」が神戸で開催すると知る。2017年のことだった。
このアフリカセミナーは後に大変重要な機会となるABEイニシアティブと連携しており、ABEイニシアティブの仕組みでアフリカから日本に留学している100名を超える研修生とのネットワーキングの機会もあった。希望する企業はブース展示で自社のことをABEイニシアティブ研修生にPR出来る機会も含まれていた。
参加したアフリカセミナーは、我が意を得たり!と思える内容であった。
最初に講義してくださったのは、大学の開発経済の教授であった。教授の講義の内容は要約すると、東アジアの近代化の時代は、繊維などの軽工業が多くの雇用の受け皿となり、若者が仕事を通じて様々なことを学ぶ機会があった。
それに対して今のアフリカは、いきなりITの時代になっており、従業員をあまり必要としないで利益を上げることを推奨するような経済がはびこっている。これが雇用が増えず、失業が増え、貧富の差が拡大するという悪影響を与えている。
アフリカの発展には若者に雇用を与える、若者を教育する発想を持った企業経営者が必要だという主旨であった。
日本のサービス業をフランチャイズ化してアフリカに進出することが、最良ではないか!と思った瞬間であった。
講義の後の質疑応答では、大学教授に、日本のサービス業フランチャイズが、課題解決になるのではないかと意見を求めたが、大学教授はフランチャイズのことをご存じなく、的を射た回答はいただけなかった。
そのあとに演壇に立ったのがケニアから来日して20年というケニア人のコンサルタント(ジェームス・クリア氏)であった。
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2017年のその講演の中で彼は、「日本企業はいつになったら動くんだ。フェイズ1の調査が終わると、翌年にまたフェイズ1の調査をし、また翌年もフェイズ1、ずーっと検討するだけで終わっている」「私は日本に来て高専と大学を卒業し、日本とアフリカの懸け橋になるべく10年、仕事をしているが、この間に、アフリカは支援の対象から、Doing Businessの対象に変わっている!」と叫んでいた。本当に叫んでいた。
アフリカを目指しているということだけに満足しているような日本企業をコンサルの客として持っていることに、苛立ちを隠せない様子であった。
ケニア人講師は、自らの講演の中で、「先ほどの質問者のサービス業フランチャイズは非常にチャンスだ」と檀上から私の意見に賛同するコメントをくれた。
一参加者として参加したセミナーであったが、私の発した質問によって、他の心ある講演者と親しくなるきっかけとなった。
セミナーの後は、企業展示のブース出展であった。
ASEANの延長でレストランや居酒屋、チーズケーキショップやベーカリーのフランチャイズの可能性を探る企業ブースに多くのアフリカからの研修生が立ち寄ってくれた。
ABEイニシアティブという制度では、学生といっても結構年配の方もいた。聞くと、大学を卒業して政府や民間で働いた経験のある人を対象にしているという。その当時で200名を超えるアフリカ研修生が来日していたが、半数は政府職員、半数が民間という方々だった。
驚いたのが、彼らが結構、事業意欲満々であったことだ。
企業ブースには50名ほどの研修生が立ち寄ってくれた。これだけ多くの外国人と意見交換するというのは、なかなか他では味わえない感触だった。
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企業展示の後は、懇親会が模様された。
神戸ポートピアホテルの宴会場に、立食ビュッフェ形式で200名超のアフリカ研修生と、100名ほどの日本側で開催されていたビュッフェ。
我さきへと列が作られたビュッフェがあった。見るとBEEF。
長蛇の列で、数分で食べ尽くされた。
次に列が出来たのがCHICKEN。
これも数分で食べ尽くされた。
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アフリカの若者たちの肉食への強い欲求を肌で感じた瞬間だった。
しばらくの歓談時間のあとに列が出来ていた。そこはCAKE。
神戸はビーフが有名でもあるが、ケーキも有名。いくつかのケーキショップのケーキが並べられていてそこにも長蛇の列が出来ていた。
ケーキを手にしたアフリカ研修生に理由を聞くと、「日本に来てはじめて柔らかいケーキを食べた」「ふわふわなケーキは初めて」という意見ばかりだった。
肉に甘いもの。
ビジネスチャンスはどこにでもあると確信した懇親会であった。