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10月4日 iprariへ

朝起きるとゲストハウスの窓から3日分の日差しが差し込んでいた。昨日までモノクロだった世界が一気に4Kのテレビになったようで、遙か遠くの木々や岩肌を鮮明にうつしだし、手を伸ばしてみたくもなる。庭にはアコーディオンカーテンのように干されたカラフルなシーツが温かな日差しを浴びている。

朝食をとって9時30分に出発。次のイプラリという村を目指す。

見上げれば雪に覆われた3000mを超える山々が、雲一つない青空をキャンバスに顔を出し、見下ろせば紅葉した木々が遙かに広がっている。時々ゴロゴロと雷が鳴るような音を立て、氷河が崩れる。

轍をあるく。ぬかるんだところに落ち葉が踏みつけられ滑りやすくなっている。昨日まであちこちに見られた枝振りの良い松や赤い実をつけた柳もこのトレイルには見られず、名も知らぬ植物が至る所に植わっている。わかるのは白樺の木くらい。風が吹くと紅葉した白樺の軽そうな葉が、表を見せ裏を見せキラキラと輝いていてスパンコールのよう。どの植物も紅葉を迎えて綺麗ではあるが、どこか春を迎えるそれとは異なり、これから冬を迎える寂しさがある。

様々な国のハイカーと出会う。中国・ドイツ・イスラエル・アメリカ・デンマーク・台湾・チェコ・イタリア・フランス・オランダ・・・彼らとお互いの労をねぎらい、この景色を見れた喜びを分かち合い、ハローグッバイを繰り返し、16時30分、イプラリまであと1時間というところにあるkhadeという村で、力尽きて宿を取る。

多くのハイカーはイプライまで行くため、この宿に泊まっていたのは私を含めて4人だった。ドイツ人の60歳を過ぎたくらいのご夫婦とそのご夫婦と同年代のイギリス人のおじさんだった。4人でテーブルにつき晩ご飯を食べる。私が遅れていくとドイツ人の旦那さんが、「君が来るまえには、牛肉のステーキや高級なワインもあったんだぜ。もうないけどなぁ」と笑いながら気の利いたジョークをくれる。奥さんの方はうまく話を私に振ってくれて外交官の奥さんのよう。イギリス人のおじさんは紳士的で、簡単な英語を使い、ゆっくり丁寧に目を見て話してくれる。

世話係がもってきた自家製赤ワインを褒めちぎりながら、「この旅が終わったらどこどこへ行くんだ」とか「アルメニアはいいぞぉ」とか「ジョージアのチャチャは酔うぞぉ」とか「なんでドイツのオクトーバーフェストは、セプテンバーにするのだ」とかそんなことを延々と話しているうちに、みんな顔が真っ赤になった。標高が高かったり、疲れてたりで酒がグルグルグルと回ったのだ。

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