10月6日 のんびり
朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、トイレにいって、村上春樹のスプートニクの恋人とカメラだけもって宿を出る。犬たちが「ナンカチョーダイ」「ナンカチョーダイ」「ナンカチョーダイ」と寄ってきては、何かしてやる前からしっぽをふったり、お腹を見せたり甘えてくる。
朝日を背に重たい庭先の扉をあけようとしているおじいちゃんやおばあちゃんに「おはよう」と声をかけながら小道を進み、教会の脇を抜け、牛や馬や羊が放牧されている緑の草地を上っていく。この緑の草地はこのまま紅葉した山につながり、そして視界いっぱいにひろがる遙か上空の雪をかぶった5000mを超える山々に続いてゆく。ある程度上ったところで、うんこのない綺麗な草地を探してドカット腰を下ろし、寝転んだりして何にも邪魔されない景色を見ながら、本を読んだり寝たりしてると、なんもかんもどーでもよくなってきて、バカバカしくなってきて、暑くも寒くもなく、風もなく、私ってとっても運がいいんだなといった気になってスキッとした。
日差しが強くなってきたので、山を下り、昼食を食べに村へ戻る。
通りに面したカフェの屋外の席に座る。メニューを見るとオムレツの下にエッグプラントとあった。エッグと書いてあるから卵料理だと思い注文した。私がこの世で一番きらいなものはナスだ。しばらくして、ナスしか入ってない料理が運ばれてきた。
なんとか食べ終えてカフェラテを飲んでいると、日本人のツアーの方々が牛と同じ早さで楽しげに通り過ぎていった。この村で1番見晴らしのいい場所に立つコテージに宿を取り、今は朝の自由時間に散歩をしているようだった。
一番最後に通りかかった赤い帽子かぶった小さなおばあさんが話しかけてくださった。
「あら、日本人ですか?日本のどちらですか?」
「私は東京からよ」ほほほ。
「ここへくる前はね、どこだったかしらね。えーっと(旅行会社が配ったパンフレットを一枚一枚丁寧にめくって、メモ書きもたくさんしてあって)、ちょっと名前忘れちゃったわ。」ほほほ
「私、今、88(歳)でね、一人でツアーに参加したのよ」
「明日はね、みんなもっと奥の方へ歩いてゆくってゆうから。私は皆さんに迷惑かけちゃうでしょ。だからここに残ってこの綺麗な景色をスケッチしようと思ってるの」ほほほ。
「ほんとうに綺麗よね」
「それでは、気をつけて旅をなさってね」
荒々しさの全くない方で、この人が描くスケッチをとってもみたくなった。