【超短編小説】細(その9)#140字小説
いつも、認め合う努力はしていたはずだ。争いの中でも気持ちの交わりを見つけようとしてきた。二人で過ごした人生は、時化ばかりでなかったのに。細く丸っこい字で書き留めた妻の名が、殊の外小さく見える書面。ここに僕が名を記せば、十年に及ぶ歴史が簡単に終わる。今更、僕の筆圧が緩むのはなぜだ?
いつも、認め合う努力はしていたはずだ。争いの中でも気持ちの交わりを見つけようとしてきた。二人で過ごした人生は、時化ばかりでなかったのに。細く丸っこい字で書き留めた妻の名が、殊の外小さく見える書面。ここに僕が名を記せば、十年に及ぶ歴史が簡単に終わる。今更、僕の筆圧が緩むのはなぜだ?