【人間観察】畳の河
「ダブル布団だって!いまでも」
お得意さんの会長さん宅では、夫婦円満だという。
たまたま訪れたとき、そこの会長さんの噂話を、女性事務員さんたちがしているところだった。
「山尾さん!オタクはどう?」
「ハア~!」
「奥様とは別々のお布団ですか?」
「当たり前ですよ!結婚も半世紀近くなると・・・そんな気なんか!」
「ウチの会長ッたら、○○子が寂しがるから、早く帰らなくちゃ!とかいって、いつもイソイソ帰るんだから・・・」
「そういえば、私にもそんなことを呟いていたことがありましたッケ!」
「奥様は、子供の頃に両親を亡くされて、とても寂しがり屋だそうなの・・・」
「それにしても・・・もう立派な後期高齢者だよ!会長も奥方も・・・」
「それに、人前でまじめ腐ってよく言うよ!あんなこと!」
営業からもどった、会長の息子さんである現社長が、締めくくりのような言葉をつけ加えた。
<やまのぼ>は思う。
実は、だれ彼なしに言っている<会長>が、一番の寂しがり屋なのかもしれない。
ところで、今宵も<やまのぼ>ご夫婦の布団の間には、日増しに拡がる<畳の河>が流れることだろう。