【人間観察】ぼくってドライですか?
「これ!見てよ!」
仕事に疲れて帰宅した<やまのぼ>の鼻先に、直径二十センチ程の絵皿一枚が入った箱と、その包装紙を掲げながらカミさんが怒っている。
「Sさんらしいよ!」カミさんは、それをテーブルに置いて一人ごちた。
聞くところによると<内祝い>らしい。
こちらに引っ越す前に住んでいたマンションで、たまたま息子同士が同い年ということで、つき合いがあったSさん。過日、その息子さんの結婚祝いを差し上げてあったらしく、そのお返しにと先程お越しになったらしい。
「そうだなァ~この絵柄はチョッとなァ~」<やまのぼ>が言い終わらないうちに、
「それもそうだけど!この包装紙をよく見てよ!」カミさんの厳しい形相。
よく見るとその包装紙には、変な織り線が走っていたのだ。一度開けて見て、気に入らない何処かからの<貰い物>を、ウチに回したんだとカミさんは解説調に言った。
こともあろうに自慢の息子さんの<大切な門出>のお祝い返しというのに・・・。百歩譲って、<気に入らない貰い物>を回すとするなら包装紙ぐらい新しくするべきだっただろう。そんな<内祝い>だから、もちろん<のし>などかかっていなかった。
そもそも結婚内祝いにかける<のし>は、紅白水引が十本結び切りになったものを用いるのが通常で、表書きは「内祝」とするのが一般的だ。水引の下には新姓のみを書くか、あるいは夫婦の連名(夫の姓名と、それに並べて妻の名前)を書くのが常識だが・・・。
無地の紙一枚すらなかったのだ。
Sさんといえば、有名な<ジコチュウ>で、話し始めれば<自慢話し>ばかりの<おしゃべり屋さん>だと、マンション中に轟いていた。どんな話題からでも<子供達の自慢話し>に持ち込む得意技は天下一品だとか。
「自慢の息子さんもあの母親では、アチコチでさぞかし恥をかいているのだろう・・・」
カミさんは、その<内祝>らしきセンスの悪い絵皿を、何度も包装し直しては溜息をついていた。こちらへ引っ越して来て、もう二十年余りにもなるのに、こんな<非常識なSさん>と、まだお付き合いする必要などないと思う、<やまのぼ>は、ドライすぎるのだろうか?