新型コロナウイルス等の感染症と個人情報保護法~中小企業と個人情報保護法4
従業員などが新型コロナウイルス等の感染症に罹患した場合、その情報を取得してよいのか、公開してよいのか、提供してよいのか、個人情報保護法との関係について検討したいと思います。
従業員が感染症に罹患したという情報
まず、従業員が感染症に罹患したという情報は、当該従業員の「個人情報」(個人情報保護法2条1項)であることは当然ですが、さらに「病歴」にあたり、「要配慮個人情報」(2条3項)に該当すると考えます。
「要配慮個人情報」とは、以前にも書きましたが、
本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報
で、原則として本人の事前の同意なく取得することはできず(17条2項)、第三者提供におけるオプトアウトも利用できない(23条2項)とされています。
従業員本人が感染症に罹患したという情報の取得
従業員が感染症に罹患したという情報は、雇用主からすると、原則として、従業員から事前に同意を得ておく、あるいは、就業規則等において定めておくことが必要となります。
もっとも、17条2項には事前の同意なく取得できる場合として、
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
五 当該要配慮個人情報が、本人、国の機関、地方公共団体、第七十六条第一項各号に掲げる者その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合
六 その他前各号に掲げる場合に準ずるものとして政令で定める場合
と例外を定めていますので、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」「公衆衛生の向上・・・のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」に該当するとして取得することも考えられると思います。例えば、症状が重く自ら連絡することができない場合などに家族から連絡を受ける場合などがこれにあたるでしょう。
従業員が感染症に罹患したという情報の利用・第三者提供
要配慮個人情報も個人情報ですから、公表・通知した利用目的を超えて利用することはできません。利用目的の範囲を超えて利用する場合には、事前の本人の同意が必要です。また、要配慮個人情報を含む個人データを第三者に提供する際にも、原則として本人の事前の同意が必要です。
例外として
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
が定められていますが、事前に就業規則等に感染症に罹患した情報をどのような目的で利用するのかを公表・通知しておいたほうがよいでしょう。
社内での公表、取引先への提供
個人情報保護委員会が公表している「新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて」によれば、社内で公表することは「第三者提供」には当たらない、仮にそれが当初特定した利用目的の範囲を超えていたとしても、当該事業者内での2次感染防止や事業活動の継続のために必要がある場合には、本人の同意を得る必要はない、当該社員が接触した取引先への情報提供は、仮にそれが当初特定した利用目的の範囲を超えていたとしても、取引先での2次感染防止や事業活動の継続のため、また公衆衛生の向上のため必要がある場合には、本人の同意は必要ない、とされています。
これを機会に、就業規則等でどのような情報をどのような利用目的で従業員等から取得し、第三者に提供することとしているのか、洗い出して確認するのもよいかもしれません。