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果たして、私のベタが本当に勝ったのか

将来を見据えてお付き合いしていた男性と関わりを絶ったのは、つい先日のことです。

家事に追われ、体調を崩しながらも、時間を見つけては彼の眠るところへ忍び込み、できるだけ、ありったけの愛を注ぐ日々でした。

はて、いつからかその愛は、彼に届くことは無くなってしまったのでしょうか──彼の心は、うんともすんとも云わなくなってしまったのです。

時間をおけばおくほど、考えを巡らせれば巡らせるほど、彼の存在は遥か遠い宇宙の塵よりも、もしかするとそれよりも遠く小さく、今にも消えて失くなりそうなものへと変わっていってしまいました。

ときに氷のように冷たい彼は、怒りと悲しみに震えながら流した、私のあの熱を持った涙には、死んでも気がつかないことでしょう。

そんな彼にも、素敵で、他の誰にも敵わないところがたくさんありました。

私をじっ、と見つめていた彼の目に、たしかな愛を見たこともあります。

不器用で、どこか冷たくて、でも可愛らしいところもあった、そんな彼へ最後まで無償の愛を捧げられなかった、この私がいけないのでしょうか。

と、誰もいない空へ向かって問う日々です。



私は某チャットアプリのアイコンに、オスのベタを設定しています。

ペットショップやホームセンターで一匹ずつ水槽に入れられているベタの姿を、誰しも一度は見たことがあるでしょう。

ベタは闘魚という名の通り、複数のオスを同じ水槽で飼うと、どちらかがその命絶えるまで、喧嘩をしてしまう生き物です。

少々気の強い私は、そんなベタの群れない習性に強く惹かれました。

欲に塗れた人間による品種改良ではあるものの、その美しい姿形は見ていてうっとりするほどです。

いつしか私はベタの虜になり、チャットアプリのアイコンにベタの画像を設定するわけですが──

例の彼との関係が始まって、間もない頃の話です。

ある夜、それはそれは酒に酔った彼が、私の真似をして、彼もアイコンをベタに変更しました。

特に意味も考えず、ただ単に、同じようなアイコンにしたかっただけなのでしょうが。

このときから、私のベタと彼のベタが、同じ水槽に入ってしまっていたんだと、今になって考えました。

ゆっくりと、重なりそうで重ならない場所をすいすい泳ぎ回り、最後はきっと、出会ってしまったのです。

ベタは闘魚という名の通り、複数のオスを同じ水槽で飼うと、どちらかがその命絶えるまで、喧嘩をしてしまう生き物──


孤独になった私のベタは、暗い水槽で何を想っているのでしょうか。

よく、このようなことを考えます。

本当は、金魚が羨ましいのではないか、と。

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