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流産はパパが原因でも起こりうる。流産した時にパパが出来る事とパパの支援。



流産とは?

流産とは妊娠22週未満でお産になってしまうことを言います。
特に妊娠12週未満の流産を初期流産と言って、ほとんどが初期流産です。

妊娠がわかっても約15%が流産となるため、どの夫婦でも経験する可能性があります。

流産の原因と不育症について

初期流産の80%は、受精の段階で偶然起きてしまった染色体異常が原因とされています。
つまり、ママに何か病気があるから、ママが何かしたからという訳ではなく、偶然起きてしまった赤ちゃん側の原因なのです。

しかし、流産を何回も繰り返してしまう夫婦が一定数います。
流産の回数が多ければ多いほど偶発的な問題ではなく、夫婦に流産しやすい何かがある可能性を考えなくてはいけません。

つまり、1回の流産であれば偶然と考えて良いですが、2回3回と繰り返す夫婦(不育症=妊娠はするけど流産を繰り返してしまう)においては流産を繰り返す病気がないか調べることが勧められます。


「ママ」が原因で起こる流産


ママの年齢は流産に最も影響を与えます

流産率は、30歳後半では約20%、40歳代になると約45%、45歳以上になるとなんと約80%にまで上昇します。

(男性の年齢も影響すると言う報告がありますが、女性の年齢ほど影響は少ないとされています)

Nybo Andersen AM, et al.  BMJ 2000 Jun 24;320(7251):1708-12

女性の社会進出に伴いキャリアプランを考えなくてはいけませんが、子供がほしい夫婦はこのことを考慮して、子作りのタイミングを考えてほしいと思います。

その他にも、肥満などの体型の問題や糖尿病などの生活習慣病、生まれつきの子宮の形の問題や、子宮筋腫や子宮腺筋症といった後天的にできてしまった子宮の病気、抗リン脂質抗体症候群、SLEといった自己免疫の病気(自分の細胞が暴走してしまい自分自身を攻撃してしまう病気)も不育症と関係します。


「パパとママ」どちらが原因でも起こりうる流産


流産を繰り返すとママの原因ばかりが注目されてしまいますが、実はパパ側が原因でも流産は起こります。

不育症の夫婦のいずれかに、転座と言われる染色体異常がある頻度が3~5%程度あると言われています。

染色体は、体の細胞の中にある遺伝情報を持った「設計図」のようなものです。
この設計図がしっかりしていないと、見た目や体の働きに問題が起きてしまうことがあります。

転座とは、染色体が本来あるべき場所から別の場所に移動してしまうことです。
染色体同士が場所を交換したり、変なところに移動してしまったりします。

ここで不育症の原因となる転座を説明します。
①相互転座:異なる2本の染色体が切れて、切れた部分が入れ替わることです。
②ロバートソン転座:染色体が2本くっついて1本になってしまうことです。

転座を持っている人は、その人自身の遺伝情報の量は変わらないため、見た目や健康には影響がありません。

ではいつ問題になるのでしょうか?それは子供を作る時です。
精子や卵子が作られるとき、体の細胞は減数分裂という特別な分裂を行います。
この分裂では、染色体の数を半分にします。
そして半分になった精子と卵子が融合することで、子供は再び大人と同じ数の染色体を持つようになります。

転座を持っている大人側からしたら遺伝の情報に過不足はありませんが、減数分裂をすると情報が足りていない染色体が子供に受け継がれてしまうことが起こりえます。

この状態で受精すると遺伝情報の過不足が原因で、流産する可能性が高まります。

つまりパパママいずれかに転座という染色体異常があると、子供を作るときに流産を繰り返してしまう不育症の原因となることがあるのです。
転座を持っていても通常は見た目や健康には問題がないので、血液検査をしなければ転座があるかはわかりません。


赤ちゃんの染色体検査(絨毛検査)の勧め

流産を繰り返す夫婦は、流産して出てきた絨毛というものを調べることで、赤ちゃんの染色体異常がないかを調べることを勧めます。
なぜなら結果によって方針が変わるからです。

① 染色体の数の異常
赤ちゃんの染色体の検査をして、染色体自体に異常はないけど数が1本多いなどの数の異常が出る場合があります。
これは減数分裂の際にたまたま起きた異常であるため、特に精査は必要ありません。ママの加齢が最も影響すると言われています。

② 転座を持っている可能性
結果によって、パパママいずれかが転座を持っている可能性を推察できます。
その場合には流産率を減少させる目的で、着床前診断(染色体異常がないか受精卵の段階で調べ着床させる)を行うという選択肢が出てきます。
しかし赤ちゃんが産まれる可能性は、現在のところは着床前診断をしても自然妊娠でも65%くらいで結果は同等です。

③ 染色体異常が見つからない場合
染色体異常が原因ではなく、ママ側に何か疾患があって流産を繰り返しているかもしれません。
その場合にはママの血液検査や超音波検査などの検査に進みます。


流産した時にパパができることは?

流産を経験したママの悲しみは計り知れません。
自分を責めてしまったり、赤ちゃんや妊婦さんを見ることが辛くなり避けてしまうこともあるでしょう。

流産を経験した後にうつ病を発症してしまう場合もあります。
流産後6ヶ月以内に10%もの人がうつ病を発症してしまうという研究結果もあります。

その他にも、強迫症と言って不安や恐怖を何度も何度も考えてしまい、その恐怖を取り除くために同じ行動を繰り返してしまう心の病気や、PTSDと言ってその時の情景が急にフラッシュバックして恐怖に襲われてしまう心の病気を発症してしまうこともあります。

流産を経験した人への心のケアの重要性は言うまでもないでしょう。
そんな時に旦那さんの存在は非常に大きいです。

下のグラフは厚生労働省の調査結果です。
流産の辛さを誰かに相談した人が 約6割で、そのうち8割の人が相談によって辛さが和らいだと回答しています。
辛い気持ちを誰かに相談することは、流産による辛さを和らげるための手段と言えるでしょう。

流産や死産等を経験した女性に対する心理社会的支援に関する調査研究


相談を希望する相談相手として8割近くの人がパートナーと回答しており、この結果からも旦那さんの役割は非常に大きいと考えられます。

流産や死産等を経験した女性に対する心理社会的支援に関する調査研究



不育症夫婦におけるパパの支援は?

不育症夫婦において、妻を支えたいと考えている旦那さんが多いのは確かでしょう。
しかし医療スタッフは、流産後のママのメンタル不調の知識があるが故に「奥さんを支えてあげて」と旦那さんに声をかけてしまうことが多いです。

旦那さんからしたら「そんなのわかってるわ」というのが本音でしょう。

妻を支えたいとわかっているのに、周囲からは支えなさいと言われ、非常に負担が大きいことが推察されます。

不育症は夫婦2人の問題にも関わらず、奥さん側は相談できる窓口や当事者会などがありますが、旦那さんにはそれが無いのが現状です。
このストレスを発散するために仕事に没頭したり、時には飲酒などの代償的な行動で解決しようとする研究結果もあります。
そうすると周囲からも奥さんからも、「無関心、無理解」と映ってしまうかもしれません。
そうすると二人の間にすれ違いが起きてしまい、検査や治療などが、前に進めなくなってしまいます。

医療機関側の支援として、奥さんだけでなく奥さんを支える旦那さんにまで目を向けて、夫婦単価で支援することが今後の課題と言えます。
(産後うつの話と一緒ですね。産後うつの問題も流産の問題も、夫婦単位での支援が望まれます)


まとめ

① 流産は妊娠22週未満のお産で約15%の夫婦が経験します。殆どが偶然起きた赤ちゃん側の原因ですが、流産を何度も繰り返す不育症夫婦では、何かしらの原因があるかもしれません。

② 不育症のママ側の原因として、加齢が最も大きいです。その他にも糖尿病や子宮の形の問題、自己免疫疾患などがあります。

③ ママだけでなくパパ側にもありうる不育症の原因として、染色体転座があります。赤ちゃんの染色体検査をすることが推奨され、それがきっかけで見つかることがあります。

④  流産後のママのメンタルへの影響は計り知れなず、流産後にうつ病や強迫症、PTSDなどを発症してしまう場合があります。

⑤ 流産後のパパの支援がないのが現状です。流産は夫婦2人の問題であり、夫婦単位での支援が今後の課題です。

2024/9/16時点のエビデンスを元に作成しています。

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