無自覚だったこと
実家にいたころ、私たち家族は旅行をするという概念がなかった。家族全員で旅行をしたことはない。休日は車でお買い物に行ったり、舞台やライブを楽しみにすることが多かった。
東京に住んでいるからか、車や電車で行ける範囲で十分満足していた。
結婚してから夫と一緒に旅行に行くことが増えた。
様々な遠方の地域に行くことによって、今まで自覚していなかった少しの恐怖を知った。
それは静寂だ。
始めてそれを認識したのは島根旅行に行ったとき。
山道を通ってたどり着く神社に行った時のこと。山の中にある神社なのであまり行く人がいないようで、山道で序盤に2人とすれ違った程度。その後は夫と二人で山道を進んだ。
冗談で夫に「ここであなたに殺されても誰も見つけてくれないよねー(笑)」なんて話しながら歩いたのを覚えている。
自分たち以外誰もいない。監視カメラもない。車の音もしない。
ここには自分たちだけ。
そんな状況を経験したのは初めてだった。
考えてみれば、普段の生活では、外に出れれば必ず人は歩いているし、車も通っているし、お店の明かりもある。家にいても救急車やパトカーやバイクの音が聞こえたり、家の前を車が通る音も聞こえる。窓を開けていればお隣さんの夕食の匂いもする。
生まれたころから人の気配が必ずあるような環境で暮らしてきた。かといって当たり前すぎてそんなことを改めて考えたこともなかった。
私は「静寂」が怖いのだと初めて知った。
どう怖いのだろうと考えてみると、
・誰も自分がここにいることを知らない
・誰にも助けを求められない
・こんなに静かでいいのだろうか
そんな気持ちが沸き上がってきてとてもソワソワする。
そのくせ、テレビで旅先特集など放送していると、のどかな場所や自然豊かな場所に「いいな~行ってみたいな~」なんて思ったりもする。
実際に行ったらまた静寂に心が落ち着かないのだろうけど。
旅先で「静寂」を知ってから、普段の生活では外の音に「安心」を感じていることを認識した。