水彩で綴る 「still life」
「 Still Life 」
降り続く雨に耐えかねて、閉め切りの窓から
湿った隙間風が滲みてくる。
ミントシロップを炭酸水で割ろう。
透けた緑が、真っすぐに光って弾ける。
光と蒸気の繰り返し。
窓の外も、部屋の中も。
緑色の誘惑。
殊に透けたガラスの緑色には
何か特別な力が宿っているような気がして、
じっと見つめてみる。
昔々の、森の奥の枝の重なり。
細く流れる川の淵の底の色。
割れた岩の隙間に隠れるように光る鉱物。
警戒を解かない獣の瞳の奥。
青い波のはじまりの緑。
暑い夏のささやかな愉しみは
クリームソーダの甘い緑。
晴れていても曇っていても、
透明な緑色の光が、
しゅわっと弾けて上機嫌。
ずっと以前に、外国の市で買った
緑色のガラスの花瓶。
花を生ける前に、窓の前に置いてみる。
薄曇りの僅かな陽射しを
さあっと通して光る。
そこに、緑色の灯りがともる。
幾つもの偶然が重なって、
日が沈むその瞬間に緑色の光線が
刹那に現れることがあるという。
エリック・ロメールの映画「緑の光線」。
一緒にバカンスを過ごす恋人のいない
若い女が、パリへ帰る駅で一人の男と出会い、
夕方の海岸へ。
そこで「緑の光線」を見ることになる。
その後、彼女が幸せに暮らしたのかどうかは
わからないけれど、
人と相容れない気難しさがあったとしても、
幾つもの偶然が重なって、
流れるように時が過ぎて、
きっと居るべき所に辿り着く。