正さんの子育て 6 キャンプ生活
キャンプ生活が始まりました。
夜明けころ私がテントの中から出ると、もうすでに正さんと息子はテントの外に座って、お茶を飲みながら海を見ていました。いつのキャンプでも朝一番は正さんと息子でした。
時々、息子は夜明け前から釣りに行くことがありました。その時は正さんが一人でお茶を飲んでいました。
「お早う 奥様お茶を入れましょう」
と言いながら、正さんがコップにいれたお茶をニコニコして私に渡してくれました。自宅では朝のお茶はいつも私が、正さんに入れていました。
朝ご飯は、パンや茹で卵、チーズやハム牛乳、キャベツのちぎったのやトマトなど、いつも簡単な物をお腹一杯食べました。朝はお昼用のご飯だけ炊くのが決まりでした。ご飯はパンを食べているうちに炊き上がっていました。
朝のご飯が終わると、正さんと息子は食器など洗いに行き、娘たちはテントの周りを片付けました。私はみんなが脱いだものをバケツに入れて洗濯に行きました。
洗い終わった洗濯物をバケツに入れてテントに戻ると、正さんと息子がそれを固く絞り、テントの周りに張り巡らしたロープにぶら下げて、洗濯ばさみで止めました。これで朝の仕事は終わりました。
それからゴムボートに空気を入れ、炊き上がっていたご飯、必需品の麦わら帽子とピーチコート、ナイフなど簡単な調理用具、釣り道具や水中眼鏡などをそのボートに積み込みこんで海に出るのが毎年の習わしでした。
いつも朝8時ごろには出発でした。
キャンプの近くは人が多いので、私たちは、遊ぶ海岸を探して海に出たのです。
正さんと息子と上の娘が、ボートの先の綱を引っ張って泳ぎました。私と下の娘は浮袋を付けて、ボートの後ろの紐をもって、ついて行いていきました。
ハチ公だけ、気持ちよさそうにボートに座り、前を向いていました。
近くに島があるときはその島まで、島のないときは海岸沿いに、人のいない綺麗な浜を探しました。
見つけた、誰もいない海辺が、わが家のプライベートビーチでした。気に入ればその海岸に毎日通いました。その海岸に飽きたら別の場所を探しました。
息子たちはボートを引っ張って泳いでいる道筋で、
「ここにさざえがいるよ」
「釣りはここがいいなあ、きすがいる」
「もしかしたら、アワビが取れるかも」
と、海底探索をしながら泳いでいました。後で魚や貝を取りに来るためでした。
私の仕事は、海辺につくと一番に、持ってきたご飯の鍋を熱い海岸の砂の中に埋ることだけでした。お昼には熱い美味しいご飯になりました。ハチ公は早速周りの探索を始めました。
私は日陰で読書などを楽しみましたが、正さんや子供たちは貝を取ったり魚を取ったり、大活躍でした。お昼はそこで取れたものをいつも食べました。何も取れない日のお昼ご飯は、砂に埋めた熱いご飯とお漬物、佃煮だけでしたから、みんな魚とりは一生懸命でした。
あの頃は、誰でも海で魚や貝を自由に捕れた時代でしたから、サザエは一人二つづつとか決めて取っていました。アワビは岩と同じ色ですから探しにくいのですが、息子や娘は慣れていて時々見つけました。見つけると二人交代で5回も10回も潜って、取るのに苦労していました。アワビが取れたときは、誇らしげに見せて、近くで浮袋に乗り、待っていた末っ子の娘に渡しましたが、アワビが少し小さいと
「これ赤ちゃんだからかわいそう」
と言って、惜しげもなく海に放され、息子と上の娘はは悲鳴を上げていました。
昼ご飯は、魚も貝も、取った者が料理をすることに決めていましたから、子供たちは大騒ぎして魚を捌きました。魚捌きの先生は、いつも正さんでした。オコゼなど姿の悪い魚は、顔が怖くて娘など後ずさりしていましたが、正さんは必ず釣った子に料理させました。
魚はすべてフライパンで焼いてお醬油かけて食べました。
アワビは滅多に取れなくて、取れても二つくらいでした。でもその時はみんな大喜びでした。正さんが、
「アワビはこうして塩でもんでから、ナイフをこのように入れて貝を外し、お刺身にするのだ」
と得意げに教えていたのが忘れられません。アワビのお刺身は、薄く切っても、コリコリして硬いので、山国育ちの私はびっくりでした。
自分で魚を料理した子供達は、「美味しい」「美味しい」と言って大喜びでした。
どこの海でも、いつも初日はプライベートピーチを探しましたが、海によっては、プライベートビーチになる海岸がないときもありました。
キャンプの夕食は、鉄板で何でも焼いて食べました。
雨が降るとテントの中であらゆるものを入れた鍋でした。2日続くと「またまた鍋」、三日目は「またまたまた鍋」と言って笑いながら食べました。みんなテントの鍋も大好きでした。
雨の日は海水浴客も少なく、しかも我々は水着の生活ですから、雨などものともせず、テントの近くの海で泳いだり、泳ぎ競争したり、水中バレーボールや、手で打つ大きなボウルの水中ツーベース野球や、テントの中でトランプなどして遊びました。
長いキャンプ生活で、時間はいっぱいありましたから、海が気に入らないときは、午後からみんなで食料の買い物方々、キャンプ場を探しのドライブをしました。
子供たちが中学生や高校生になっても、なぜだか海のキャンプだけは大好きで、必ず行きました。