謎SNS「対多」の偽中国語文法 ~我々は新言語の誕生を目撃しているのかもしれない~

偽中国語限定SNS「対多」が話題だ。いや、話題ってほどでもないが、ジョークアプリとしか思えないコンセプトにしては人が集まっている。

対多の魅力の半分は、難しすぎないパズルを出題したり、それを解くような楽しみだと思う。あとはID概念がないというのも気楽でいい。みんな自分のカラーを気にせず無責任に投稿することができるし、人の承認欲求を見なくてすむ。IDが無いかわりに掲示板スタイルになっている。じゃあ対多(ついた)とはなんなんだ。

この新しい言語、偽中国語文法にはコンセンサスのとれていない部分があり、複雑な構文を扱う者は存在しない。しかし、もしもこのまま対多がある程度のボリュームを保ったまま存続するならば、重文や複文といった複雑な文章を成立せしめるだけの文法が(エスペラント語のように人工的にではなく自然に)整備されていくのではないかという期待がある。

今はまだ日本語を漢字に置き換えてるだけだ。例えば受動態「攻撃を受ける」は偽中国語にしやすい。「我攻撃受負傷」で十分だ。しかしおなじく受動態でも「車を壊された」は偽中国語化しにくい。「攻撃を受ける」を応用して「我車破壊受」とか、あるいは日本語をすこし無理に言い換えて「破壊を被る」としてから偽中国語変換することは可能だがまだなじんでいない。違和感がある。この違和感が消えると、それは新たな言語が誕生したと言えるのではないだろうか。

ここに現在確認されている対多文法をまとめて置こうと思う。ここに紹介する引用例文は全て対多に投稿されたものなので、生きた偽中国語である。

対多文法

熟語並べ変換法

英国偏見 悪口歓迎

我鬱病、生存理由、発見困難

我同様経験有。絶対証拠保全、必須慰謝料請求。

熟語という日本語の持つ特性に極度に依存した変換法。縛りプレイの日本語とも言える形で、意味はすらすらとれる。語順が日本的ではなく、漢詩的な響きになる。これは中国人にもわかりやすかろう。しかしかなり表現が硬くなってしまい微妙な(例えば「~するといいかもよ」というような)ニュアンスを出すのは今のところ困難。妙にスノッブで鼻につく。対多文法に文語と口語があるとすれば、熟語並べは文語である。

一日三食、間食無用。散歩散歩、日中昼寝厳禁、夜就寝。規則正確生活。日中横臥姿勢厳禁、毎回着席。

「散歩散歩」は明かにリズムを意識している。ラッパーかよ。

助詞送り仮名省略変換法

対多作文のトレンドのように思う。日本語の話し言葉に、出来る限り漢字化できる言葉を選び、そこから平仮名を排除することで構成される。誤解を招きそうな部分だけ工夫する必要がある。つまり、うっかりすると誤解を招く熟語を作ってしまうという問題がある。例えば、「我求める助け」を「我救助」とすると、まるで私が誰かを助けようとしているみたいになってしまう。

当職場圧倒的人手不足故、雰囲気的退職不可

~は(判断の主題を提示する助詞)

これは対多語文法学会の難題のひとつ。
「私は」の「は」は省略されることが圧倒的に多いが、どうしても欲しいときもある。登場人物が多くなると「私は」なのか「私に」なのか「あなたは」なのかわかりにくくなる。英語ではこの点を語順を固定することでクリアしているが、日本語では語順はいくらでも入れ替え可能なのだ。

また、文章内で主題が変わる場合にも必要性がでてくる。

皆、仕事何? ※学生派昨日的夜飯回答

この例文では文脈的に理解可能だが、「派」がないと困る場合がある。そしてこの助詞に「派」を使う文法は一般的ではないし、どの漢字を使うべきかのコンセンサスがない。「是」が使われることがまれにある。是は中国語でもbe動詞的に使われ、頻出である。

しかし(逆説)


必須の接続詞。これは漢字(然し)を知っていれば困らない。

腹痛、然便所不通

欲する、してほしい

「求」、「欲」を使う。または「希望」を最後につけるなど。けっこう語感が強くなってしまい、漠然と「~したいなぁ」というニュアンスを出せない問題がある気がしている。

多種多様衣服着用可能身体欲、健康的痩身方法求

「欲」と「求」二種の求める表現が使われている良文である。

~に関して(関係・従属、つまりabout)

静岡人、山梨人間常時争。巡富士山。

「巡」は「争」との相性がよいが「巡」が使いづらい場面もある。例えば「誰かについての話をしている」ときはどう表現するのだろう。

ですます

基本的に省略されるが「也」がよくつかわれる。これはただの「ですます」というよりは強調を含んでいるようにおもう。

我経験者、同士也

~も

「同様」を使えば良さそう。例文は見つけられなかった。

~に

我対狂人闘争故遅刻也

「対」が使いにくい場面もあるが「対」は感覚的にもわかりやすく、応用していくことは可能のようにおもわれる。

人による、物による

「次第」が使われている例を複数確認。

いまにも○○しそう

これはどう表現していいのかわからない。スレタイだが、

大便漏、助

というのはあった。

の(所有)

「之」、「乃」、「的」
多数

~のため

「故」を用いる。

一週間後父親誕生日、何譲渡? 我女学生故金欠。三千円以内求

あなたはどう思う?

「?」に含意させる文法が横行している。スマートではない。上の例文に同じだが、

一週間後父親誕生日、何譲渡?

否定

異論認不

「不認」を用いるパターンもある。

我夢国未行 

ことしの心残り文脈

これは「まだ~ない」という否定を「未」のみに負わせている

進行形、継続・進行

これもまよいどころ。「現」を用いる実例を見たことがある。

我現遅刻、最適言訳如何?

スマートだが一足飛びに日本語から離れすぎているきがする。諸学者に厳しい。

我現在寿司屋滞在中

この「現在~中」をさまざまな動詞に広げれば諸学者にも優しそうだが、こなれてくると上の例文のような使われ方が横行するのかもしれない。そして日本語の事情として日本語の進行形は習慣反復を表すことができるが、これは「我〇〇習慣有」でよさそう。

受動態

明日叱責受予感

「叱責」と「受」は相性がいい。「叱責」自体受動態でよく口にする言葉でもある。「物を与えられた」みたいな場合にも「受」がつかえるだろうか。「我車破壊受」とか「我車破壊被」など使うことを推奨したい。

ちなみの例文にある「予感」は「~な気がする」を表現できるので、重宝しそうである。

使役表現

わからん。まじでわからん。それこそ「使役」を使うか、あるいは「仕向ける」? 

命令

「汁」が使われた例を複数確認している。

強調

  • 非常

  • 糞(しばしばいい意味での強調に使われる)

時制

時制は基本的に無視される。過去未来を表すためには「明日」、「昨日」など時系列のわかる単語が使われ、特別な時制文法は存在しない。しかし語尾に「了」が使われた例は複数確認している。「〇〇終わったからおやつたべよ」みたいなときに重宝するかもしれない。

宇宙人連去了

遅刻の言い訳文脈

ここでとことん困るのが過去完了。「経験有」は使われるが、過去完了に時系列のわかる単語を使うだけでは厳しい。「昨日カギなくしたかと思ったんだけど見つかった」をどう料理するか。

提案

語尾に「如何」を見たことがある。この場合は「いかが」だろう。

今後自分名前「大便男」名乗、開直如何?

しかし「如何」は疑問に用いられることもある。この場合は「いかん」、「いかに」だろう。

最適言訳如何?

しかし「如何」は「なぜ(why)」のためにとっておいた方がいいようにもおもう。

5w1w

「誰」「何時」「何処」「何」「何故」「如何」

~かどうか(間接疑問)

尚、心整理可能君次第

恋人の浮気を知ってしまいどうするべきか文脈

「かどうか」は省略されいてるが「次第」に含意されている

血便(不確定)排出、病院行可?否?

この間接疑問文の作り方は中国語や東南アジア系の文法でよくみる疑問文法にちかい。日本人にはなじみがないが、もし偽中国語に定着すれば非常に使いやすいはず。以下は本物の中国語の用例である。

  • 要不要(いる? いらない?)

  • 吃不吃(食べる? 食べない?)

比較級

父好物食料。手作尚良。

父へのプレゼント文脈

個人的には「比較的良」、「比較良」、「比較好」を勧めたい。中国人にもわかりやすいはず。

ダジャレ型カタカナ語変換

はっきり言って紛らわしい。以下は「キログラム」の例。

我二十二女、九十帰路。多種多様衣服着用可能身体欲、健康的痩身方法求

音訳型カタカナ語変換法

定着するまではわかりにくいがダジャレよりはまし。以下は「アニメソング」の音訳。

亜似目孫具

意訳型カタカナ変換法

対多民はこれが大好き。草を生やしてくれる。

巨乳挟珍棒

パイズリの意

英日翻訳型

なんか妙な気づきがあって楽しい。スマート。

連鎖店

チェーン店の意

まとめ

今後も推移を見守っていきたい。

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