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エアドーム 第三話

 最初の目的地が決まった一行は、目的地である運搬用エレベーターの近くまで来ていた。多くの従業員が作業しており、常になにか作業している音が聞こえてきていた。

 ここに来るまでの間に作戦は決めておいた。ジゼやブレンは隠れて、俺が車を上に送る手続きをする。無理やり突破するよりも正式な手続きをした方がいいと皆で話し合った結果だ。一応バレたときの作戦はあるが、三人ともあまり乗り気ではない。
 まぁ何はともあれ、搬入が始まらないことには動くことができない俺たちは談笑をして待つことにした。
 「おー!近未来って感じがして最高だな!」
 「近未来ではない気がするが…まぁ、気持ちはわかる。かっこいいよな」
 「さすがだな!弟よ!」
 「だから弟じゃねぇ」
 「ハハ…弟が冷たい態度取ってくるんだけどどう思う?妹よ」
 「私も妹じゃないよ…。ごめんねブレン」
 先程の会話からお兄ちゃんに憧れを抱くようになったのか、ことあるごとに俺を弟、ジゼを妹として呼んでくる。まるでお兄ちゃんに憧れるの子供のようだった。このこともあり、ジゼに弟扱いされているようだった。移動中に話していたからか、張りつめていた緊張がほぐれたようでだいぶ柔らかく喋ってくれるようになった。
 ブレンもそれが嬉しいようで、俺には噛みついてくるのにジゼには噛みつきにいかない。見慣れてくるとまるで飼い犬だななんて思い始めるようになった。
 「お前ジゼに対してはぐぬぬ…って感じだけどなんでなんだ?」
 「…?…だって男は女の子に優しくしてやるもんだって言ってたぞ?」
 「誰が?」
 「ジョンだ」
 「まーたジョンの話か…」
 「またとはなんだ!またとは!」
 ほら、また噛みついてきた。
 車に乗ってる間に何度もジョンという人物について聞かされた。最近公開された映画のキャラクターらしく、開発地区で働くことになってから映画とは無縁の生活を送ってきた俺には全くわからないキャラクターだった。ジゼは名前だけ聞いたことがあるそうだが、受験時期と被っていたらしく詳しくは知らないようだった。ブレン曰く、お調子者だが義理堅い性格で、普段遊び人なだけにかっこいいときとのギャップがいいらしい。
 「あー!早くこの目で拝みたいなぁ…」
 「いつか見れるといいな」
 「あぁ…そんときゃ一緒だぜ…兄弟」
 「ちなみにどっちが兄貴?」
 「もちろん俺だ」
 「やっぱりかよ」
 談笑しながら待っていると大きい振動がした。どうやらエレベーターがこちらに着いたようだった。全長二十mはある鉄の扉が開くと、離れている俺らにも見えるほど巨大な機械が姿を現す。
 これから搬入が始まる。最後に作戦を確認する。
 「作戦はわかってるな?搬入が終わったら、今度は搬出が始まる。そんときにこっちの古くなった機械だったり故障した商品も入れる。それに俺が車を入れる。しばらくしたら俺もなんとか車に戻ってくる。そんときまではまた車の中に隠れててもらうがいいな?ブレンは故障した振りをしててくれ」
 これは俺が事務所から逃げ出したことを全体共有されていないと踏んだ作戦だ。もしバレてたら俺は捕まるだろうが、ジゼのことまでは知らされていないはずだろうから、最低でもジゼとブレンは逃げれる。
 とは言っても、俺が事務所を出てからまだ二十分くらいしか経ってない。セダンも大事にはしたくないだろうから慎重に動くはずだ。それならまだ間に合うはずだ。
 
 そう思っていたのに…。
 「やぁ、さっき振りやね。元気してた?」
 ここにセダン・メルスはいた。

 作戦はかなり順調に進んでいた。
 俺の読み通り、俺が事務所から逃げ出したことはまだ知らされていないようで、事務所と俺の名前を必要書類に書いたときに、確認した人物に何も言われなかった。むしろ「お疲れ様」と言われるほどに信用されてた。これが正面から突破することにした理由の一つだった。事務所で使っていた車は以前からガタが来ていたが、上が新車の導入を渋っていた。そのことをここに来るたびに話していたのだが、そのおかげで今回やっと許可してくれたんだと思ってくれたらしい。そのおかげか普段よりもスムーズにことが進んでいく。重量についても、故障したふりをしているブレンを見せて納得してもらった。
 あとはIDを読み込んでもらい、書類に書かれた人物と間違いないか確認してもらうだけだった。その作業をする従業員も顔見知りだったので、いつものように談笑しながら作業が終わるのを待っていた。
 「ん?」
 「どうした?」
 「ちょっと待っててくれ。お前が来たら所長呼ぶように書かれてるんだ」
 「えー…なんだろ…良い人だけど話長いんだよなぁ…」
 「わかる。すぐに終わらせるようにそれとなく言ってみるよ」
 「ありがと」
 しばらく待っていると従業員だけが戻ってきた。
 「所長は?」
 「今手が離せないから少し待っててくれ!だってさ…」
 「まじかよ…」
 「でも、ちゃんと言ってやったさ。三分間だけ待ってやるってな」
 「怒られるぞ?」
 そう言い、笑いあっていると後ろから呼びかけられた。
 その声の主がセダン・メルスだった。

 「君。悪いんやけど向こうに行っててもらってもいいかな?」
 「誰だお前?ここは関係者以外だめだぞ」
 「やめとけ、その人はメルス家の人間だ」
 その言葉に従業員はギョッとすると無礼を詫び、何度もお辞儀をして去っていった。
 「どうしてここにいるんだ?」
 「どうしてって当たり前のこと聞かんでよぉ…。今この開発地区に出入口は一個しかない。そこを君らが行くとは思えんくてね。ならあとはここだけや。丁度稼働してるタイミングだったし、ジゼがいるなら何かあっても大丈夫やからな」
 くそっ…やっぱ優秀な野郎だな。
 こうして話してる間も警備ロボットが俺らから一定の距離を保って取り囲んでくる。従業員が少ないところでできる限り見られないようにしながら、確実に俺らを捕まえるつもりか。
 (それならこっちから動いたらだめだな…)
 「随分慎重なんだな」
 「そらそうやろ。一回目の前で逃げられとるしなぁ…。今も車で逃げられんか気が気じゃないわぁ」
 「じゃあ車を押さえるのが先決じゃないか?」
 「そこらへんもちゃんとカバーしとるよ。後ろにも前にも作業中の従業員がいる。逃げてもええけど…従業員たち避けれるかなぁ」
 「おいおい…随分と性格悪いことするじゃないか」
 「知略って言ってくれるかな?メルス家=性格悪いって聞きすぎてタコができそうなんや。性格が悪いだけのサルと同じにされるのは癪に障る」
 「感情的になるタイプだったとはな…意外だよ。家族のこと嫌いなのか?同じ血が流れてるのにどうしてだ?」
 「嫌いだ。でも、その理由をお前に話す義理はない」
 そうとういらついたのか手に握られていた拳銃の銃口をこちらに向けてくる。
 「悪かったよ…ここまでやられたら降参だ。ジゼは車の中だよ。ただ身を隠すために廃棄予定のロボットの下敷きになってる。助けてやってくれ」
 「機械を操れるんなら自分でどかせれるやろ?」
 「動けるようになってないと操れないらしいんだ。倒したときは俺でも動かせるくらいの角度にしてたんだが、動いた衝撃で完全に倒れてしまってどうしようか迷ってたんだ。それにロープかなんかで引っ張らせたらいいだろ?それなら操られる心配もないはずだ」
 「…」
 それからしばらく悩んでいたが最終的には了承し、どこからか持ってきたロープをブレンの足に巻き付けて車から引っ張り出した。
 「ようやっと会えたなぁ」
 ブレンをどかした車内にジゼの確認し、車から降りてくるように命令する。その後ろでは警備ロボットがブレンに巻き付けたロープを外していた。
 「お久しぶりですね。セダンさん」
 「そうよなぁ…どう?僕のモノになる覚悟はできた?」
 「その件なのですが…お断りさせてもらいます」

 その答えを聞いた瞬間、後ろから「おらぁ!」という声が聞こえると同時に頭上をでかい何かが通った。
 「なに!?」
 その方向を見ると壊れた警備ロボットがあり、振り向くと土木用のロボットが残りの警備ロボットを蹴散らしていた。唖然としているといつの間にか近づいてきていたブライに拳銃を持っていた手を蹴られる。その衝撃で手から離れた拳銃が遠くにすべっていく。

 「今だ!乗り込め!」
 俺たちを取り囲んでたロボットはブレンによって停止した。セダンが持ってた拳銃も今蹴り飛ばした。
 今しかないッ!
 乗り込んだのを確認してから車を発進させる。
 さっきブレンが警備ロボットを投げ飛ばした音でこちらを見ていた従業員たちは、自分たちの方に近づいてくる車に驚いて道を開けてくれた。
 そのままの勢いで搬出の準備をしていたエレベーターないに滑り込む。
 「ジゼ!頼む!」
 車から飛び出し床に触れる。
 (お願い!動いて!)
 ジゼがそう念じると巨大な鉄扉が閉じ始める。
 「よしっ…!このまま行けッ!」
 中で作業してた従業員たちが突然の出来事に焦り、外に向けて走り出す。
 その光景を目で追っていると拳銃でこちらを狙ってるセダンが目に入る。既に標準は合っているようだが、逃げ出す従業員たちに阻まれて撃てずにいるらしかった。
 そうこうしていると完全に鉄扉が閉じ、エレベーターは上昇を始めた。
 全員で顔を見合わせると全員が安堵し、全身に疲れがドッと来ると同時に全身から力が抜けていく。
 「やったな…やったぞ!」
 気怠さを感じながら一人ひとりとハイタッチをした。

 「逃げられたか…」
 拳銃を腰に戻しながら上昇していくエレベーター見上げる。
 「…やっと手に入ると思ったんだけどなぁ…随分と焦らしてくるやん…」
 身体のうちで冷めていた熱の温度が上がっていくのを感じる。
 久しぶりの感覚に高揚を隠しきれない。
 「絶対手に入れてやる…!」

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