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テレパス会社と未来社会

あー月曜日だー!行きたくねー/だりーと思ってたのは昔の話。

今は在宅どころかテレパシ出社が基本。

時間になると、チャイムが鳴って、右耳の上の出社ボタンを押す。カチって音とともに目前は白くなりオフィスが現れる。身体を動かすことなく、移動して、みんなにあいさつして、デスクに着く。スケジュールは、黙ってても左目の上の方で文字列が動き、心地よい異性の声で説明される。就業時間になると分刻みの仕事になるが、基本発想し、簡単なロジックを作るだけであとは文書作成AIがやってくれる。またコピーやプレゼン資料などわざわざ作らなくても、以心伝心プログラムに意識を集中させるだけでいいのは楽である。ホントうに人間にしかできないことを、機械がちゃんと分類して制御してくれてるから、サクサク仕事ができる。ただ人間は時折、頼まれてもいない深掘りや要求品質以上の発想をしてしまうので、それは強制クールダウンが入る。
また、物事に固執してしまうと、ムキになってひととぶつかってしまうことがあるが、そういう時は左耳の上のやる気スイッチを押して、脳を落ち着かせる。

プライベートが筒抜けを心配する向きも当初はあったが、人間って楽になるとどうでも良くなる。

出社は2時間で終わり。これは厚生労働省が全国民に課している決まりで、人生150年を生き抜く知恵だとか。職場の連中と飲みに行く場合は、右目の上のスイッチを押して飲み屋街に瞬間移動する。見た目ビール🍺に似た飲み物は適度な酔いと快楽ホルモンを提供してくれる。お金は払わなくても、自動決済だから勝手に現れていく。喉越しもリアルでグビグビいける。
そろそろ酔いも回ってきたから、カラオケでも行ってみんなで歌って気分良く家路につくとするか。同僚に挨拶したら、即座に切り替える手もあるが、ほろ酔いで家路を歩きたい気分なら、右上の徒歩帰宅を選べば良い。夜風に吹かれながら、千鳥足でかえり、玄関に倒れ込むのもできる。一方、カラオケのスイッチを切って、あたまのスイッチが全てオフの状態にすると家の中で、空中にぷかぷか浮かんでいる自分がいる。
どういう仕組みで浮かんでいるのか全くわからないけど、至極快適だ。
時折、僕はほんとうに存在するのか、目の前で指をしごいているこの手は本物か、考えてみるけど、もう眠い。

30年前には考えられなかったパラダイムシフトだと父は言う。

すべてにおいて人間尊重、脳波コミュニケーション、テレパシーでメタバースを闊歩できるテレバースの実現は、あらゆる障害から人を救い、機械の欲する要求を満足させるに至っては、人間はじつは働かなくても食えるようになっている。

政府には新たな仕組みで無尽蔵の財源を与え、国民から税を取らずとも済むようにした。

そういえば、いつから自分の五体に触れずに平気になったのだろう。
恋愛も結婚もしなくていい。したければ、マッチングシステムで、好みのパートナーを見つけたり、愛を育んだり、家族を持つことも可能だ。
ただそれらはすべて自らの脳内と、さらにテレメインシステムを経由するネットワークにより構築された仮想現実であり、実際には何も起きていない。
というか、相手に触れている感覚も、香りも、声も、痛みも、満足も、喜びも、悲しみも、一緒に歩いた景観も、一緒に汗を流した経験も、すべて。

子どもは、試験管ベビーならぬ、すべて人工受精で、脳型のカプセルに納められ溶液に浮遊しながら成長するのだ。

栄養や刺激、学ぶべき内容はすべてあらかじめプログラムされたものが送り込まれる。
温室育ちなので、150年でも生きられる。

これこそが、ニンゲンの叶えたい夢ではなかろうか。

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