【エッセイ】白目むいてムーンウォーク
中学時代、私は茶道部に所属していた
ある日、活動を終えて
茶碗を片付けていると
突然、校内放送が流れた
「校内に残っている
部活動中の生徒に注意事項があります。
ただいま学校の周辺に
猿が出たという情報が入りました。」
「え〜っ!猿!?」
部内のみんなが騒ぎ出す
放送は続けて
「繰り返します。
学校の近くに猿が出ました。
下校する際はくれぐれも
気をつけるように。」
「え〜こわ〜い!」
「猿って凶暴なのかな?」
きゃーきゃーとさらに騒がしくなる部室内
私たちは怖いと言いつつ
非日常なこの出来事を楽しんでいた
「ウキャッキャッキャッ」
お調子者の後輩ニッシーが
猿のモノマネをし始めたところで
顧問の先生が和室に入ってきた
「みんな、聞いたと思うけど
猿に注意して帰ってね」
みんなへっちゃらな顔で
「は〜い!」と返事をした
先生はさらに続けた
「もし猿と出会ってしまったら……
目を合わさず
背中は見せないよう後退りしなさい」
猿は凶暴なため
目を合わせたり背を向けたりすると
襲いかかってくる可能性があるらしい
すると突然
お調子者のニッシーの目が
ぐるんと上を向いた……
白目だ……
私はびっくりして
そのまま彼女の様子をうかがった
彼女はそのまま
ギクシャクとした不思議な動きで
後ろ歩きを始めた
え、なに?
怖い怖い怖い!
ニッシーは猿にでも
取り憑かれてしまったのか…!?
さっきまでの和やかな雰囲気とは一変
緊張が走った
みんなどうすることもできず
ただ呆然とニッシーを見守っていた
「白目むいてムーンウォーク…!」
「!?」
彼女がそう呟いた
「目を合わせちゃダメで
背中も見せちゃダメなら
白目むいてムーンウォークすれば
いいんじゃないの?」
「!!!」
なるほど!
いや、なんだそれ!?
なんとニッシーは
猿と目を合わせないために白目をむき
背を見せないためにムーンウォークをしていたのだ
というか、ニッシーのムーンウォークは
サイドブレーキを引いたままバックする軽トラのようで
まるでムーンウォークになっていない
こんな使われ方をするなんてマイケル・ジャクソンも不本意だろう
私は思わず吹き出した
ひとしきり笑いあったあと
みんなで
白目むいてムーンウォークしながら家まで帰った
私たちを目撃した人は
さぞ恐ろしかったことだろう
きっと猿よりも、ね
皆さまも野生の猿にはお気をつけください!
東井れもん