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変人後輩S

なぜか変な人と関わることが多い私
今回もそんなお話です

10年程前のことです
当時私は中途採用でアパレル業界の会社に勤めていました
事務員私一人、営業三人の小さな職場です

大阪本社の社長が、会社を大きくしようと、東京営業所(私が勤めている職場)の営業マンを募集しました

採用され、入社してきたのは、私よりも5歳ほど年下の若い女性でした
ショートカットとパンツスタイルが似合い、どこかあどけなさを残した顔をしてます
某有名大学卒で英語が堪能とのこと、かなり頭が良さそうです
彼女をSさんとします

ところがこのSさん、とんでもなく個性的な性格をしていたのです

Sさんは比較的話しやすい営業のTさん(40代後半、男性)と、よく話すようになりました
その会話で明らかになったこと
「天皇陛下の顔を知らない」
「今何年かわからない」
「今の首相の顔も名前もわからない」
家にテレビがないのか…?

収入印紙(受取金額が一定金額以上になると、領収書に貼る切手サイズのもの)を、
「これ切手ですか?!」と私に聞いてきました
「いやいや、これは収入印紙というもので…」と私は説明しました
今まで生きてきて収入印紙を知る機会がなかったのか…?

ベランダの喫煙所でタバコを吸ってたSさん
「キャー!」と言いながら室内に入ってきました
「虫が腕についてるんです!虫無理なんです!wさん(私)取ってください!!」
見ると1mmほどの小さい虫です
私はサッと取ってあげました
今までどうやって生きてきたの…?

Sさんが電話対応して、Tさん(外出中)宛の電話を取りました
折り返しをください、とのこと
Sさんがメモを残します
外出先から戻ってきたTさんが「こんな人知らない」と言っています
私は「名前がよく聞き取れなくても、電話番号さえ聞いておけば折り返しが出来るから」とSさんに丁寧に教えました
その後どうなったのかは知りません

展示会(ショールームに服や靴のサンプルを飾って、卸先のブティックなどの取引先を呼んで、注文を受ける)がありました
ショールームに向かおうとして道に迷った取引先のお客さんが、携帯電話で電話をしてきました
Sさんが電話対応します
「わかりました!今そこまで迎えに行きます!」と言っています
私は慌ててメモに「携帯電話の番号聞いておいて」と書いて、電話中のSさんに見せました
Sさんが相手に携帯電話を聞きます
メモを持ってSさんが職場から飛び出しました
もし番号を聞いてなくて、取引先と出会えてなかったら、どうなっていたのでしょう…?

Sさんは自信家です
「私は童顔なので」「私は記憶力がいいので」
「新規開拓したブティックで、店主に「あなた可愛いから商品買ってあげるわ」と言われた」
などと言っていました
「それ自分で言っちゃうんだ…笑」と私は心の中でツッコミました

しかし全ては「若さゆえ」と許されます
(私はいろいろ許されなかったけど)
でもそうも言ってられないSさんの異常さが徐々に見え始めました

私が勤務前の朝に、ベランダの喫煙所でタバコを吸っていると、Sさんもやってきました
「wさん聞いてください、今朝電車で会社に向かってる時に、優先席でスマホをいじっていたら、おじいさんに「優先席で携帯いじるな!」と叱られました、私は「うるせぇじじい!」と言って、中指を立てて電車を降りました」
などと言っています
私は唖然としました
ここまで常識がない子だったとは…
でも私は「大変だったね、変なおじいさんだね」と話を合わせました
「お母さんに、あんたそういうの気を付けなさいよ、そのうち事件に巻き込まれるよ、と注意される」と言ってました
いや、常習犯なんかい

またある時は、「私は深夜の2時に洗濯機を回すんですけど、下の階のおじさんが「おい!うるせーぞ!」と怒鳴りこんできた、それからは深夜洗濯機回すときは、音がならないように洗濯機を抱え込んでいるんです」
などと言ってきました
いや、注意されたなら深夜に洗濯機回すのやめなよ…

土日を挟んで月曜日
Sさんは金曜日の夜を満喫したようです
「バーで酔っ払って記憶をなくして、気付いたら黒人男性の膝の上に乗ってた」などと言います
なんかいろいろ危なくないか…?大丈夫か、この子

またある時は、「女友達三人とラブホテルに行ってヌードを撮影した(Sさんはカメラが趣味です)、ラブホテルは3000円だった」などと言ってきました
「へーそうなんだ」と私は返しましたが、
私になんて返して欲しかったのでしょうか…?

最初は女性同士ということもあって、
私を慕ってきたSさんでしたが、
営業と事務という別業務であることや、
私がいつも忙しそうにしている様子を見て、
あまり接してこなくなりました

他の営業が出払って、Sさんと私の二人きりになった社内
私が伝票入力済みのハンコ(インクが薄いので力強く押さないと印字されない)を押していると、
「うるさないなぁ…」とSさんがつぶやきました

また電話が鳴る度に、Sさんは見ていた資料を凝視して「ん~?」と言って、「今私は忙しいので電話出れませんよ」アピールをしてきます
明らかにSさんより私の方が業務が多く忙しいのですが、私は電話に出なくてはいけませんでした

でもSさんにも良いところがありました
また展示会があった日
朝出勤しようと家を出ようとしたとき(当時は北関東の実家から都内に通勤してました)、母が「ゴンタ(実家で飼ってた老犬、ミニチュアダックス)が死んじゃった~!!」と叫びました
私は最初、ふざけてるのかと思い、
「何やってるの~笑」と笑って玄関からリビングへ戻りました
すると、ゴンタが本当に虫の息です
所長に出勤が遅れる旨をメールして、いろんな動物病院に電話をしまくり、
早朝からやってた動物病院に両親と私で、ゴンタを連れて駆け込みました

「もう亡くなってます」と動物病院のお医者さんは言いました
私は大泣きしました
14年連れ添った愛犬です
ゴンタを心から愛していたのです

それでも悲しみに暮れている暇はありません
展示会は事務員が居ないと回りません(お茶だし、飲み物の補充、氷の補充、受注集計、弁当の買い出し、などなど)
出勤しなくてはなりません
泣きながら電車に乗ります

遅れて出勤して、一段落してベランダでタバコを吸っていると、
私の異変に気付いたのか、Sさんもやってきました
Sさんに「今朝、家の犬が死んじゃって…」と気持ちを吐露しました
つい泣いてしまいました

Sさんは「そんなことがあったのなら、会社休んじゃえば良かったのに」と言ってくれました
私は「でも展示会だから…」と返しました

Sさんは続けて言いました
「私もうちのお母さんも霊感があるんですが、うちも実家の犬が死んじゃったとき、お母さんが愛犬の霊がしばらく家に居た、って言ってましたよ、まだ自分が死んだことを理解してなかったみたいで、しばらくしたら居なくなったみたいです」
「まだ霊になって居ますよ」と慰めてくれました
私は「Sさんが不思議な性格をしてるのは、霊感があるせいなのかな…?」とふと思いました

Sさんが会社を辞めることになりました
この会社は将来性がなく、入社してきた若い人はどんどん辞めていきます
Sさんは「営業回り」をしてるフリをして、面接を受け、次の職場が決まっていました
「所長に辞めますって言ったら、すんなりOKしてくれました」と言ってます
私が「辞めます」と所長に言ったときは、「もう少し考えてみて」と辞めされてくれなかったくせに…
そして事務員は電話番や金庫番の留守を任されるので、休むことも日中外に出て隠れて面接を受けることも出来ません

「私もこの会社辞めたいんだよね、出来れば辞めてからしばらくゆっくりしたい、疲れちゃったから」と私が言うと
「次の職場は決めてから辞めた方がいいですよ!」とSさん
いや、そこは常識あるんかい

Sさんが辞めて、しばらくしてから私も辞めて、それから少しして会社も潰れ、
Sさんのその後の状況はわかりませんが
今はもう「若いから」が許されない年齢になっています
当時よりも常識を備えた社会人になっていることを、切に願います

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