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苦手症候群の正体

あるイベントでの一幕。僕はいつものようにイベント会場で遊び場を作って、たくさんの遊びもので来場者のみんなを遊ばせていた。

そこに小学4年生くらいの男の子が家族とやってきた。傍らには小学校高学年くらいのお姉ちゃんらしき人もいる。

たくさんの遊びものを前にして物色していた彼。おもむろに僕は彼に遊びものを差し出す。

「これやってみる?中国ゴマって言うんだよ!こうするんだ」

中国ゴマをご存じの方がどれくらいいるのか正直さなかではないが、僕と同じ30代中ごろの方なら昔テレビで見た「幸せ家族計画」や「新春かくし芸のまちゃあき」を思い出す人は少なからずいるだろう。

そして今回の主役である小学4年生くらいの彼は真っ先に僕にこう答えた。

「僕はそれ苦手だからしない」

結構食い気味にくるじゃないの。

普通の教育者なら「じゃあこれは?」と優しく他の選択肢を進めるんだろう。本当に皆さんの優しさには頭が下がる。

しかし彼にとって不運なことは、この時の相手は”細かいことが気になりだしたら掘らずにはいられない遊び学者”だったことだ。僕はすかさず彼に尋ねた。

「え?これ苦手なの⁉ってことはやったことあるの⁉」

彼は困惑した様子で返答する。

「いや、やったことはない」

ほう。これは大変興味深い。もう完全に遊び学者ロックオン入りました。

「えっ?やったことないの?じゃあなんで苦手ってわかるの?やってみないとわからなくない?」

(コイツめっちゃ詰めるやん)

内心はこう思っていたであろう彼は言葉に詰まる。しかし目の前のコイツは嬉々としてさらに詰めてくる。

「ほら。だってさ、両手で持って右から左に転がすだけだよ。そして持ち上げて右手を上下にあげるだけ。この動き自体は小学生以上なら誰でもできるよね!やってみない?」

「失敗するもん」

「失敗するかどうかはやってみないと分からないよね。あとこれ失敗したらどうなるの?テストじゃないよ?怒られないよ?」

「・・・」

「見て!あの子!同じ中国ゴマをさっきからやってんの。メッチャ失敗してる。でもねちょっとずつ上手くなってんだよねー。」

そんなやりとりを数分していた。

結局、この日彼は中国ゴマをやらなかった。手に取りさえしなかった。

別に僕は中国ゴマ伝道師ではないのでやらなかったこと自体は何とも思わない。でも彼の言動は遊びを考える上で非常に興味深く思考の種としてはサイコーだったので心からお礼を言いたい。

やったことないのに"苦手"と言う彼。

失敗"しそう"ではなく失敗"する"と言い切っちゃう彼。

そんなに勧められても触ろうともしない彼。

そんな彼を理屈で詰めることしか出来ない僕。

1つの言動で遊びの本質を見失ってしまう僕。

そんな彼と僕。

そのやり取りを少し後ろでただ黙ってお姉ちゃんが見守っていた。

彼女は心の底から「お前ら何やってんだよ!さっさと遊ぼうよ!」と思っていたことでしょう。

ごめんね。お姉ちゃん。



でもな!お姉ちゃん!一言言わせてくれ!

キミもずっとただただ黙って見てんじゃねーーよ!弟の前にまず私がやってみろよ!

そして、そのさらに数メートル後方でただただ佇んでるお父さん!ただただ佇んでんじゃねーよ!お前がまずやってみて盛大に失敗しろよ!こーかな?あーかな?とかやってみろよ!

取り乱してすいません。

遊びとは遊び心とは。決してただヘラヘラ楽しそうなことをやってるだけではないんだろうな。



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原田 光
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