
43歳で癌になった時のこと
43歳で癌になった時のことを書いておく。
診断と治療
腎細胞癌だった。ステージ1。直径2cm。
発見は、職場で半ば強制的に受診させられる人間ドックの腹部超音波検査だった。臨床検査技師さん、グッジョブすぎる。その午後に泌尿器科のある病院に行って、また超音波検査。「これが腫瘍って言いたい気持ちもわかるけど、微妙」と眼鏡長髪美人泌尿器科医(非常勤)が言いつつ、CTの予約をしてくれた。ここでCTを受けなかったら翌年は腎臓摘出レベルまで癌が育ってしまったかも。
CT検査は、造影で腫瘍を確認、ダイナミックCTで悪性度の確認、と日を開けて2回検査が必要だった。1回1万円。高い。
内視鏡で手術できる病院を紹介しようか?手術だから御家族ともよく相談して、と武術が強そうな女医さんに言われたが、その病院で最短日程で開腹手術を希望、と即答。家族と相談したって決めるのは私だ。家族で医療に一番詳しいのも私だし(医療系資格持ちではないのだけど)。
治療は、手術で部分切除するだけ。抗がん剤は無い。
麻酔でどうにかなっても病院を訴えません、輸血するかもしれないけど判断はお任せします、輸血でどうにかなっても病院を訴えません、治療に必要な生体由来物を含む薬でどうにかなっても病院を訴えません、など、いろんな人が来ていろんな同意書を書かされる。病院も大変だな。
お盆休みに有給休暇を数日付けて、入院10日に自宅療養4日くらいで仕事復帰した。お医者さんも看護師さんたちも質問や要望に真摯に対応してくれた。経過観察は6年通った。良い病院だった。
手術前後の検査等含めて、治療費は全部で30万円くらい。うち、入院手術費は18万円くらいだった(高額療養費制度適用後の金額)。
原因
たいていの癌は原因不明だ。私は腎細胞癌のリスクファクターには全部当てはまらなかった。ただ、実兄も私に2年遅れて腎細胞癌で手術したから、どうやら家族性だったみたい。つまり、今後も再発の可能性あり。検査はサボらずちゃんとやろう。
心境
人間ドックから手術まではいろいろ調べて、すごい悪性だったら嫌だな(小さくても悪性度の高いがんはある)、すぐ死んじゃうのはちょっとな、と心配した日もあった。一方で、子どもたちはまだ小学生だったけど、夫は家事全般できるし、子どもたちを自力で大学に行かせられる程度には貯蓄も潤沢にあったので、家族のことはそこまで心配してなかった。夏休みの自由研究は手術の前の週末に済ませた。
お金のことはどうにでもなるけど(いよいよなら生活保護がある)、家事の外注は大変。頼める人も少ないし、頼むレベルの割には費用が嵩む。家事全般を最低限できるスキルは誰でも身につけておきたい。医療保険より大切なことだ。
子ども、夫、職場の関係者には腎細胞癌で手術、という話は最初から全開で話してた。隠す方がめんどくさい。聞かされた方は、それぞれに思うところも心配もあっただろうけれど、「加工食品ががんの元」みたいな余分なことを言う人は皆無だった。下の子だけは、それは生き死にに関係するような深刻な話なのでは?とつっこんでくれた。うん、まあ、そうなんだけど、その時はその時、と適当に返す私。
保険金がたくさん下りるのは嬉しかった。冷静に計算するとマイナスだったが(解約返戻金を追加して100万円ほどプラスになった)。
入院中はいっぱい本を読もうと意気込んでタブレットを新調したけど、術後の痛みであんまり読めなかったのは残念だった。痛い時はFMラジオを聞くのが一番リラックスできた。
とほほだったこと
・硬膜外麻酔の副作用で手術翌日に嘔吐祭りになった。重度の二日酔いの5倍くらい酷く、動くだけで吐いてた。
・副作用が酷いので麻酔は早々に撤去。痛いと訴えたら「ロキソニンとボルタレン、どっちが良い?」と聞かれた。もちろん、どっちも切腹の痛みに対抗できるわけがない。
・術後に、尿道カテーテルが入ってるのに尿意がある。変だと思いつつ看護師さんに伝えたら、フラッシュしてもらえた。血餅と共に、ちょっとどうかと思うくらいの量が一気に出て恥ずかしかった。
・術後の経過観察通院で、まだ切腹跡が痛いと言ったらビタミンB12を処方された。真面目に飲んだが、効果が感じられない。その次の診察で「あんまり効果なかったでしょ」と主治医に言われた。
・保険金の請求に必要な診断書を書いてもらい、主治医の悪筆(解読不能レベル)に親近感を覚えた。
・術後の経過観察で造影CTの直後に目をこすったら、看護師さんがすっ飛んできて「痒いですか?他に痒いところはありませんか?」と慌てていた。目にゴミが入っただけだったのに、アナフィラキシーの心配をさせて申し訳ない。
・切腹後2週間で仕事復帰はさすがに大変だった。通勤でトータル20分ほど歩いたからか、びっくりするような血尿。無茶しやがって。傷もまだまだ痛くて仕事に集中できないし。常日頃から、仕事に集中なんてしていないけれど(ダメ社員)。
・退院する時、病院の建物から外に出た瞬間、世界は光と生命に満ちてて美しい、と思った(8月の昼間に10日ぶりの屋外で、とても眩しかった)。
いろいろ言われるけど、がんは自覚症状が出る頃は手遅れなことが多い。自治体の検診は受けるべきだし、職場が費用負担してくれる人間ドックも受けるべき。早期発見ならそこまで大事にならない。
術後半年くらいは何かと気を遣ってくれた家族も、今となっては「お母さん、がんサバイバーなんだけど」って言っても「はい、はい」とスルーする。9年も経てばそんなものです。と言える状態でよかった。