独身女性がマンションを買うこと
私が既婚子持ちなので、差別的な物言いにならないように気を遣いつつ、恐る恐る書く。
私が社会人になりたての頃、20世紀カウントダウンな時代でも、バブル期に総合職入社してバリバリ稼いでた独身女性が、自分の住まいとしてマンションを買う、という話はチラホラ聞いた。
すごいなあ、何十年も続くローンを組む覚悟、とは思ったけど、無謀な話とは思わなかった。私も親に二世帯住宅を建ててもらった時点では結婚の予定が全くない状態だったし。あ、念のため、親の建てた家なので、私は親に家賃を払ってた。それも学生の時の仕送りと同額。当時は何の疑問も持たず、請求されたし払えたから払ってたけど、父の守銭奴ぶりも大概だな。いや、最初の車は親に買ってもらったし、文句はないのだけどね。
ここ数年で、職場の40才代の独身女性たちが立て続けに自分用マンションを買った。彼女たちは揃って「資産価値が落ちない立地」を重視して新築マンションを買ったと言う。
うちの会社は製造業だけど比較的給与水準が高いので、派手に遊び回らず20年も勤務すればマンションの頭金くらい簡単に貯まるだろう。物件によってはキャッシュで買えるかも。
でも、資産価値の落ちない立地のマンションをキャッシュで買うのは、給料だけでは無理だ。住宅ローンは必須。
さらにランニングコストも無視できない。40才から90才までずっと住み続けるとして、50年間。大規模修繕が2回か3回、他に住宅設備の更新も3回くらい。そして共益費に修繕積立金。均すと1人用アパートの賃貸費用と同じくらいの出費が、物件価格とは別にかかりそう。一人用の住まいって、割高。
資産価値の落ちない、つまり通勤や遊びに便利なところに、新しくてきれいなマンションを買うのは「道楽」「贅沢」と割り切るのなら、何の問題も無い。何を重視するかは人それぞれだから。
でも、例えば10年落ちの中古物件でも満足度はそう変わらなくて、物件価格で500万円節約できるのなら、その500万円で車や家具にこだわる選択肢も出てくる。
そもそも、いくら資産価値が落ちなくても、自分が住んでいる以上は売ったり借したりはできない。新築プレミアムもあるから、売却時に購入価格より高く売るのも難しいと思う(先のことはわからないけど)。
老人ホームに入る時にまとまったお金が欲しいのなら、大地震が来たらアウトな「資産価値の落ちない」物件に全振りするより、いろんな資産に幅広くリスク分散して運用する方が合理的だ。
女性のためのマンション購入セミナー、みたいなイベントもよく見かけるが、住宅購入で考慮しなければいけないポイントは、性別も職業も年齢もパートナーの有無も関係なく共通で「総支払い額が身の丈に合う金額かどうか」だけだ。女性のための、という枕詞で、家庭持ちよりお金を持っている確率の高い独身女性をターゲットに、巧みなストーリーを載せて購買意欲を煽っている『売り手』を直視できているだろうか。
その上で、住まいくらい贅沢しよう、と本気で思えるのなら、高額な住宅購入も悪くない。
でも、資産価値の落ちないマンションならいざという時も安心、みたいな不安を煽られての選択なら、ちょっと考えてほしい。
家を買っても孤独死や痴呆を避けられるわけじゃない。高額な治療費が必要な病気など、お金がかかるアクシデントのために住まいを手放すとしたら、アクシデントの不幸に加えて、今よりグレードの落ちる住まいに移る不幸。
その時に「資産価値の落ちない住まいで良かった」と安堵することはできるのだろうか? もっと楽に手の届く価格の住まいで現金もしっかり確保しておいたら転居は避けられたかもしれない。
もちろん、みんな自分の幸せのために自己責任で新築マンション購入を選択しているはず。それでも、自分のための理由だったら、真っ先に「資産価値が落ちない」は出てこないだろう、と、私は勝手に心配している。売る側のセールストークにまんまと乗っかっていないことを、彼女たちが後悔する日が来ないことを、割と真剣に祈ってる。
まるで新築物件が贅沢みたいな言い方するオマエはどうなの? という問いに答えると、私は転勤で親との二世帯住宅を去った後は、古いけど猫飼育可能な社宅で期限まで粘り、その間に節約できた家賃分含めてかなりの金額を国内株で運用した。そして、キャッシュで買えたけど、敢えてのフルローンで20年落ちの中古戸建を購入した。20年経ったら住み替えかスケルトンリフォームを検討する。物件価格はほぼ土地代だったらしいので、それこそ資産価値はほぼ減らない。解体費用分が目減りするくらいか。もっと高額のローンも組めたけど、無理はしなかった。不動産屋は新築物件も盛んに勧めてきたけど、中古住宅一択。
それでも、持ち家は道楽。私が家を買った理由も、猫道楽だから。ニンゲンに何千万円も支出させちゃう生き物、恐ろしいな。