大人の自由研究:文豪の死因と21世紀の治療
中島敦と聞いて、代表作が言える人と、「誰?」って聞き返す人。
日本文学好きかどうかの分岐点はここら辺にあると勝手に考えているのだが、どうか。
いきなり趣旨が逸れたが、中島敦は30代で亡くなってる。死因は喘息。今は喘息のみで亡くなる方は相当減った。発作を起こさないよう日常コントロールする治療法が確立されたから。Wikipediaによれば、中島敦はもっと書きたい気持ちを抱えて亡くなったようで、今だったら死なずに済んだのにね、としょんぼりする。
というわけで文豪の死因と、21世紀だったら延命できたかどうかを勝手に検証。死没年齢と死因はWikipediaを参照した。
いきなりだけど誰が文豪か?
さあ調べよう、と思ったら文豪の定義が無い。個人的には三島由紀夫がボーダーライン、安部公房は文豪だけど石原慎太郎はなんか違う。中上健次は文豪だけど西村健太はちょっと違う。大江健三郎は辛うじて文豪だけど村上春樹にはもっと今っぽい肩書きを付けた
ここでは「文豪ストレイドッグス」のWikipediaに掲載されている登場人物のうち、実在した物故者を扱う。文豪ストレイドッグス、読んでも観てもいないけど。なお、文豪の定義は、別記事にまとめてみた。
中島敦
33歳没。死因は気管支喘息の悪化。
1980年頃から吸入薬でコントロールという発想が出てきて、90年代後半から日常コントロールとして使用する吸入ステロイドが普及、喘息死は激減する。
もっとも、今でも喘息による死亡は国内で年間千人程度あるらしい。日常管理の徹底、超大事。
太宰治
38歳没。死因は水死。
あー、太宰の場合は21世紀でも救えたかどうか。この人、ライフワークが自殺未遂だから。
1909年6月19日 出生
1928年12月10日 カルチモン自殺未遂
1930年11月28日 カルチモン心中(田部シメ子死亡)
1935年3月18日 首吊り自殺未遂
1936年3月 カルチモン心中未遂
1948年6月13日 入水心中
現在の日本の自殺者数は年間2万人程度。欧米よりかなり高い数値で推移している。
国木田独歩
36歳没。死因は肺結核。
抗生物質の普及で1950年以後、結核死亡者は激減。ただ、日本は欧米より結核患者が今でも多く、結核による死亡も年間1800人程度いる。
江戸川乱歩
70歳没。死因はくも膜下出血。
高血圧と動脈硬化を患っていたとのことで、1990年代から普及している高脂血症の薬や高血圧の薬を適切に服用しつつ食事や運動に気をつけたら男性の平均寿命である81歳まで生きられたかも。あと10年生きたら大阪万博を観ることもできただろう。
谷崎潤一郎
79歳没。死因は腎不全と心不全。
高血圧を長く患っていたようなので血圧コントロールできていたらとも思うが、最晩年まで著作活動していたことや現在の日本人男性の寿命を考えれば、充分に長生きしたと言えよう。
宮沢賢治
37歳没。死因はおそらく肺結核(Wikipediaでは急性肺炎からの喀血とのこと)。
本人の信念でベジタリアンであったこと、それによる栄養失調も災いしたように思える。生前は著作で評価されることがほとんど無かったので、ちゃんと評価されるまで生きていられたら良かったのに。
与謝野晶子
63歳没。直接の死因は尿毒症による心不全だが、前段階として脳出血か脳梗塞による半身不随がある。
血圧と血中脂質コントロールができていればあと20年生きられただろう。
福沢諭吉
66歳没。死因は脳出血。
血圧と血中脂質コントロール、超大事。って言うか福沢諭吉を文豪に入れることには異議ありだなあ。
泉鏡花
65歳没。死因は癌性肺腫瘍とのことで、つまり肺がん。
肺がん死亡は年間7万人以上だそうで、今でも難しい病気ではある。とは言え、30代で既に売れっ子だった泉鏡花、出版社が毎年人間ドックを受けさせ、早期発見していれば余裕であと20年いけたのでは?
田山花袋
58歳没。死因は脳溢血と咽頭癌。
脳溢血は血圧コントロールで解決だが咽頭癌は現在も治療が難しい。年間7百人程度が亡くなる。ヘビースモーカー・深酒さんの病ではあるので、節制したらもっと生きられたかも。
芥川龍之介
35歳没。死因は服薬自殺。
神経衰弱、今なら鬱病というところか。その上に経済的苦境などもあって追い詰められたようだが、今なら仕事を休ませて抗うつ剤でコントロールすることで、自殺を避けられたかもしれない。
樋口一葉
24歳没。死因は肺結核。
抗生物質さえあれば、と言いたいが、樋口一葉の場合は極度の貧しさによる栄養失調も改善したい。武家出身のプライドで生活保護もフードバンクに並ぶのも嫌がるだろうけど、公文式で子どもに教える仕事ならやってくれそう。
中原中也
30歳没。死因は結核性脳膜炎。
抗生物質さえあれば。抗生物質さえ。
尾崎紅葉
35歳没。死因は胃がん。
胃がんの死亡数は年間4万8千人程度だそうだが、これだけ若くして胃がんだと、発見も遅れがちだし今の医学でもなかなか難しいかもしれない。
自分の同級生の一人も、24歳の時に胃がんで急死してしまった。ショックだった。
梶井基次郎
31歳没。死因は肺結核。
ああ、抗生物質。
夢野久作
47歳没。死因は脳溢血。
生活習慣と血圧コントロールでまだまだ生きられたはず。
森鴎外
60歳没。死因は結核。
仕事量も膨大だし、夭折とは言い難いが、医師であっても結核感染から逃れられなかったとは。あと20年生きてたら脚気の病因も理解できたかも。
織田作之助
33歳没。死因は肺結核。
いやほんとに多いな、文豪の結核。
ポール・ヴェルレーヌ
51歳没。死因はWikipediaには明記されていない。
同性愛者でアルコール依存気味で放蕩&自堕落な生活を送っていたようなので、悪条件の割には長生きしたと言えよう。
広津柳浪
67歳没。死因は肺結核。
文豪なのか。読んだことが無いし、国語便覧で見た覚えも無い。浅学さを思い知らされる。しょぼん。
立原道造
24歳没。死因は肺結核。
文豪でなくとも、こんなに若くして亡くなると親は高確率で存命なので、本当に気の毒である。
坂口安吾
48歳没。死因は脳出血。
生活習慣と血圧コントロール。塩分も控えないとね。
種田山頭火
57歳没。死因は脳溢血。
脳溢血は脳出血と同義らしい。
F・スコット・フィッツジェラルド
44歳没。死因は心臓発作。
アルコール依存状態だったようなので、脱水からの心筋梗塞だったのかも。アルコール依存も治療が難しい病気である。
L・M・モンゴメリ
67歳。死因は鬱病からの薬物過剰摂取による自殺。
うつも手強い病気だ。完治させるのは難しく、生活に支障のない寛解を目指し、コントロールは長期間続く。
ジョン・スタインベック
66歳没。死因は心臓発作。
名声ほどには収入には恵まれなかったようで。もっとも、発作が心筋梗塞であれば、予防と治療は今なら可能。心室細動ならAEDの出番。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
46歳没。死因は腸癌。
おそらく大腸癌だろうけど、この若さでねえ。人間ドックか大腸癌検診で便潜血を定期的に確認していたら早期発見できて治療できたのではなかろうか。
ナサニエル・ホーソーン
60歳没。死因は日本語版Wikipediaに明記されていない。英語版でも就寝中の死亡としか。胃痛に悩まされていたとのことで、胃潰瘍や胃がんがあったかもしれない。
浅学なのでこの人のこともよく知らない。
マーガレット・ミッチェル
48歳没。死因は交通事故。
21世紀でも交通事故は無くならないが、件数は減ってる。日本国内の交通事故死亡者数は年間2600人程度。
この方、超有名だけど「風と共に去りぬ」しか書いていないことは今調べて初めて知った。
マーク・トウェイン
74歳没。英語版Wikipediaによると死因は心臓発作。
高齢なので仕方ない。浮き沈みはあったようだけど十分に長生きと言えよう。
ハーマン・メルヴィル
72歳没。英語版Wikipediaでは心血管病により死去とのこと。
心筋梗塞だとしたら高脂血症の治療をすればもっと生きられたかも。生前は評価も高くなくて寡作のようだけど。
エドガー・アラン・ポー
40歳没。死因は不明だが酒場で泥酔状態で発見されてせん妄状態のまま数日経ての死亡とのことで、向精神作用のある何かが混ざっているような粗悪な酒だったのかメチルアルコールか。結婚を控えていたとのことで悲劇である。が、死因がわからないので現代医学で救えるかどうかもわからない。ある意味、ポーらしい。
ルイーザ・メイ・オルコット
55歳没。英語版Wikipediaによると死因は脳卒中。
脳出血か脳梗塞かわからないが、血圧コントロールできていたらあと30年生きられた可能性がある。
フョードル・ドストエフスキー
59歳没。英語版Wikipediaによると死因は肺出血。描写的に喀血なので、肺結核ではなかろうか。
アレクサンドル・プーシキン
37歳没。死因は決闘で受けた傷。
破傷風菌などで敗血症にでもなったのだろうか。敗血症は現在も致死率が高いが、抗生物質や良好な衛生状態で当時よりは生存確率は上がっているだろう。しかし決闘相手もこれでは夢見が悪いな。
イワン・ゴンチャロフ
79歳没。死因は肺炎。
年齢的に誤嚥性肺炎か。今でも高齢者の誤嚥性肺炎の治療は難しいように思う。あと、この人のこともよく知らない。
小栗虫太郎
44歳没。死因は脳溢血。
昔の日本人は塩分の過剰摂取による高血圧も多かったと思う。今ならメタボ検診と保健指導でばっちり予防。
ニコライ・ゴーゴリ
42歳没。死因は断食。
信仰にのめり込んでいたとか、原稿を焼いちゃうとか、尖ったところのある人だった模様。
アガサ・クリスティ
85歳没。死因は風邪をこじらせたこと。英語版Wikipediaによると自然死。
天寿を全うしたと言えよう。
大倉燁子
74歳没。Wikipediaには死因が明記されていない。
探偵小説の単行本を出した女性として日本初だとか。
条野採菊
70歳没。死因は心臓衰弱。
どちらかというとジャーナリストらしいので文豪とは言い難いかもしれない。
末広鉄腸
47歳没。死因は舌癌。
頭頸部の癌は比較的稀だが今だに治療が困難で亡くなる方も多い。とは言え、舌癌は自己発見もあり、早期に治療開始できれば生存確率も上がる。
この人もどちらかというとジャーナリストらしい。
夏目漱石
49歳没。死因は胃潰瘍。
今なら胃潰瘍は治せる。ピロリ菌の除菌をして。糖尿病でもあったようだが、糖尿病も直接の死因にならない程度にはコントロール可能。文豪オブ文豪な漱石があと10年生きたら、さらに傑作を書いたかも。
幸田文
86歳没。死因は心筋梗塞後の心不全。
年齢的に天寿を全うしたと思う。というか、お父さんの幸田露伴の方も文豪だと思うのだけどなぜか取り上げられていない。
佐々城信子
71歳没。死因はWikipediaには載っていない。
文豪ではなく、複数人の文豪と関わりのあった女性。
アンドレ・ジッド
81歳没。死因は肺結核。
亡くなったのが1951年なので抗菌薬の治療も受けたと思うけど、今でも結核で亡くなる高齢者は少なくない。
H・G・ウェルズ
79歳没。死因は肝臓癌。
ウィルス性肝炎だったら予防や治療が可能であるが、発症した肝癌は厳しいだろうなあ。年齢的には十分に長生きと言えそうだが、いろいろな持病があったようで、大変な晩年だった模様。
ジュール・ヴェルヌ
77歳没。死因は英語版Wikipediaによると脳卒中。
糖尿病だったようなので、コントロールできていればもうあと数年生きられた可能性がある。
メアリ・ウルストンクラフト
38歳没。死因は産褥熱。
衛生的な処置と抗生物質があれば死なずに済んだのに。
文豪ではなくフェミニズムの先駆者として社会運動をしていたが、妊娠して、子の不利益を避けるために結婚して支持者を失い、その出産で亡くなるとは悲劇としか言いようが無い。その子が後に「フランケンシュタイン」を書いて世に出たのがせめてもの救いか。
澁澤龍彦
59歳没。死因は頚動脈瘤破裂。
下咽頭癌も患っていたことからヘビースモーカーであったと推察され、さらに高血圧で動脈瘤形成に至ったものと思われる。
タバコを吸わなければもっと生きられただろうなあ。
以上、文豪ストレイドッグスの登場人物で実在かつ物故者の死因を、現代医学だったら、と考察してみた。
結核と脳卒中だらけ。しかし長生きの人は長生き。運もあるのだろうなあ。