「キミをアナスターシャ」リスペクト小説~英語の勉強編~
中高6年間ずっと眼鏡だったが、コンタクトに変え、髪も茶髪に染めた。
高校までは大学合格のみを考え、勉強に励んでいたが、大学合格の知らせを聞いたその日から、旅行に、カラオケ、ボーリングと遊び呆けていた。
そんなこんなもすべて、今日という大学デビューの日のための訓練だったと言っても過言ではない。
万年クラスの2軍でいた僕に回ってきたこの機会。
このチャンスを掴まないでどうする!
スタートダッシュをばっちし切ってやろうじゃないの!
そんな気持ちを心に留めて意気揚々と教室に入っていった僕。時を戻せるなら、目覚ましのアラームを1時間ずらして、その教室に行かなかったことにしたい。
1限の英語の授業。隣の人は肌が真っ白で、超絶美人な渡辺さん。ちょっと早く着いたこともあって、LINEの連絡先交換もしちゃったりした。
そう、ここまではよかった。
初回ということで、簡単な英会話から始まった。先生が誰かを指名して会話するという流れで、カッコつけたい僕は1番に手を挙げた。
立ち上がって、先生が英語で話しかけてきた瞬間に気付いた。入試が終わってから1度も勉強せずに遊んでいたせいで、中学生レベルの英語すら話せなくなっていたのである。
広がる沈黙の空気に耐えられなくなった人たちのクスクスという笑い声が、メンタルと大学デビューの淡い期待を削ぎ落としていった。
その後はもう、ずっと体調が悪かった。大学デビューに失敗した僕は、心がズーンと落ち込み何も頭に入ってこず、ボーッとしていた。
ただ、渡辺さんは帰り際に、
『元気だしなよ。』
と肩を叩き、缶のカフェオレを置いていってくれた。
なんて優しい女神なんだ。
* * *
その渡辺さんにもらったカフェオレをちびちびと飲みながら今日という悪夢の日を振り返る。
交換したLINEのプロフィールを見ながら、なんとか心の傷を癒す。プロフィール画像は彼女らしき人の横顔の影になっている。
「あ、下の名前"みり愛"って言うんだ。珍しい名前だけど可愛いなぁ……。」
その画面をボーッと眺めていたら、スマホが手から滑り落ちる。慌てて拾って画面を見ると、彼女への電話が発信されていた。
ヤバイ!ヤバイ!
焦ってキャンセルを押そうとしたが間に合わず、彼女の声が聞こえてきた。
『あ、もしもし〜中田くん?どうしたの〜?』
「あ、え、あの……そうだ!カフェオレありがとう!」
俺は手に握っていた缶を見て、咄嗟に返答した。
『あ〜あれね〜。だって中田くんめっちゃ落ち込んでたんだもん。大丈夫?』
「あーーやっぱり?英語の授業で調子にのって恥ずかしい思いしたから。めっちゃダサかったでしょ?」
突然の電話にも驚くことなく、僕のことを優しく励ましてくれるなんて。ある意味いま、大学デビューを密かに果たしているのかもしれない。
『ん〜…でも…私も勉強できないから…。』
『じゃあ、一緒に勉強するか!』
「あ、いいんですか?」
「えっと……じゃあ……」
「お互いなんか英単語教え合うっていうのはどうでしょうか?」
おお〜っと向こうから誘ってきたではないか。
これはもうそっちに話を持っていくしかない。
ずっと下降して今にも墜落しそうだった気分を、一気に上昇の方向に転換させる。
『あ〜いいねぇ。』
『でも……なんだろうなぁ〜。』
『じゃあ、どこでやる?勉強。』
「じゃあ選択肢は、僕ん家か、みり愛さん家になりますけど…。」
『でもさぁ、あれでしょ…。』
『じゃあ、私の家くる?』
「あ、ありがとうございます!渡りに船です!」
『そしたら頑張れるでしょ〜』
「僕の家はいま片付いてなかったので…」
どさくさに紛れて「みり愛」呼びしてみたが特に嫌悪感は示さなかった。これはいけるやつやん……。
電話で一緒に勉強することに漕ぎ着けた僕は、直ちに準備に取り掛かる。
と言っても、引っ越してきたばかりで何もない部屋から、必要なものを揃えるにはそれ程時間はかからない。
そう。部屋が片付いていないというのは真っ赤な嘘だ。
2分で準備を整えて、家を飛び出す。
日が傾いてきているのもあり、少し肌寒い。
そんな寒さを吹き飛ばすぐらいに、自転車をアクセル全開、スピードMAXで漕ぐ。普通なら15分くらいかかりそうな彼女の家までの距離を5分少々で到着した。
「おじゃましまーす!」
彼女のアパートへと足を踏み込む。
急いで来たせいか少し息が上がっている。
廊下を抜けて、リビングへ。
「すっごく片付いてますね。女の子らしい家だ。」
『あ、よかったぁ。』
少し緊張気味だった彼女の顔がやわらぐ。
目尻が垂れる顔が可愛いらしい。
物はそれほど多くないが、女の子感も感じられるインテリアが良い雰囲気を出している。
「じゃあ、えっとお互いに問題を出し合う形でよかったですか?」
『あ、うん、いいよ。』
荷物を下ろす間もなく、早速、勉強を始める。
勉強しにきました感を出さないとバレてしまう。
「じゃあ僕の方から……ンン!! えっと、日本語を言いますので、英語で答えてください。」
『はい。』
一度咳き込み、心を落ち着け、喉の調子を整える。
「私は……あなたを………愛しています。」
「これを英語に出来ますか。」
『ん〜と……じゃあ………』
彼女は斜め上に目線をずらし、1度考えてからこちらに目を向け、まっすぐ見つめ答えた。
『I love you.』
「Yes of course. I love you too!!」
英語を忘れていた僕の頭の中に風が吹き、忘れてた記憶が蘇る。刺激され覚醒状態に陥り、自然と口が動いていた。
これが「風を感じる」ってやつか……。
Don't blow the wind.Feel the wind.
どこかで聞いた名言を身をもって感じた。
以上、おふざけ気味に書いた「キミにアナスターシャ」企画リスペクト小説でした!!
2020年4月5日放送のらじらー!サンデーの21時台の企画を参考に書きました。NHKラジオアプリのらじるらじるで2020年4月12日10:55まで聴き逃しをすることができるのでそちらも合わせてご確認ください!
本小説は21時台の9:08あたりにあります!
また以前私が書いたらじらー小説で、同じように電話系のストーリーでみり愛ちゃんが出てくるものもあるので、よろしければご覧ください。
(リンクを下に貼っておきます。)
今回のストーリーの3年後位のイメージしていただければ繋がりがあって面白いかと思います。
それでは読んでいただきありがとうございました!
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