エイプリルフールのデレステ二次創作
アイドルマスターシンデレラガールズ二次創作小説。
『少しだけ不思議な普段のお話』あらすじ
若干14歳で様々なロボットを開発する天才技術者にしてアイドルでもある池袋晶葉。
アイドルの仕事をしながら自分と向き合い、346(みしろ)プロの仲間たちと切磋琢磨する日々は、技術者としてもアイドルとしても大きく彼女を成長させた。そして、ついに彼女のソロ曲とその発表ライブが決まった。プロデューサー、仲間たちと喜びを噛みしめる晶葉。
「ふっふっふ!ついに!この日が来たな!プロデューサー!」
2019年6月10日。
発表ライブ当日。それは起こった。
突如、ステージ上空に出現した黒い穴。それは掃除機のように周りのものを吸い込み始める。騒然となるステージでアイドルたちを庇ったプロデューサーがその穴に吸い込まれてしまう。晶葉は咄嗟に自作のうさぎロボットを放つが、穴はロボットをも飲み込むとそのまま消えてしまった。
「だ、大丈夫だ!ロボットには追跡機能とGPSがついている!プロデューサーの跡を追わせたから、それで位置を……」
しかし、ディスプレイに映し出されたのは「NO SIGNAL」の文字。ロボットはこの世界中のどこにも存在していないことを表していた。
プロデューサーが、消えてしまった。
途方に暮れるアイドルたちの前に、再びあの黒い穴が現れる。その中から飛び出したのは晶葉が先ほど放ったはずのうさぎロボだった。
なぜか真っ黒に着色され、デザインもだいぶシャープに(例えるならスーパー系からリアル系に)改造されたうさぎロボは、晶葉たちにビデオメッセージを持ち帰っていた。
「ハロー!そちら側の私!安心したまえ!君の助手は無事だ!」
そこに映っていたのは消えたはずのプロデューサーと、そして……
「天才である私に天才である君の力を貸してほしい!」
池袋晶葉だった。
2029年6月10日
その日、一人の天才が世界を救うための実験を開始した。
若干24歳。数々の発明で世界をより良くしてきた彼女の最新作。
未知のエネルギーを取り出す「ニューエナジーキャプチャー」の起動実験である。
実験は順調に思えたが、突如マシンは暴走。
空間に穴が開いたかと思うとそこから何かが飛び出して、マシンは活動を停止した。
「よし!おおむね成功だな!」
嵐が通り過ぎていったような状態のラボを見渡して満足げに微笑む彼女。
その前に見知らぬ男が急に姿を現した。
男は彼女を見て、言った。
「良かった。池袋さん、無事だったのですね」
「自分より他人の心配をするとは相当なお人よしだな!ご覧のとおり!私は無事だが、しかし君は誰だね?」
「……なんてことだ、記憶が」
「いや、記憶が混乱しているのは君のほうだ!君は私のことを知っているようだが、私はまったく君のことは知らない」
「池袋さん……」
「だが、心配は無用だ」
天才、池袋晶葉の頭脳はすでに一つの結論を導き出している。
「君はここではない世界から来た」
「どういう、ことですか?」
「よく見たまえ、私は本当に君の知っている池袋晶葉かな?」
どうやら暴走した「ニューエナジーキャプチャー」は、次元を繋ぐポータルの役割を果たしてしまったらしい。
まさか偶然とはいえ、多次元宇宙論を実証してしまうとは自分の才能が怖いと晶葉は思う。
「つまり私は、こちら側の池袋さんの実験中の事故からあちら側の池袋さんを助けようとして巻き込まれてしまったというわけですか?」
「その通りだ!うかつに失敗という言葉を使わないところに好感が持てるな!」
「そうでしたか」男はなぜか笑みを浮かべた。
「何か可笑しいかね?」
「いえ、なんというか、池袋さんらしいなと思いまして」
「やはりお人よしのようだな!君は!」
男の知っている晶葉は14歳であるという。そして、自分と同じように様々なロボットを作る技術者でアイドルなのだという。
「ん?あいどるとは?」聞きなれない言葉だった。
晶葉が尋ねると、男は持っていた携帯端末を見せてくれた(その端末はかなりの年代物だった)
映像の中の自分の姿を見て、晶葉は驚いた。
「わー!なんだこれは!どうなってるんだ!大勢の前で私が歌って踊って、なんてことだ、これは……これは……面白い!!いや、幼い頃から自分の可能性についてひたすら考えてきた私だ、それはもうたくさんの可能性を考えてきたのがこれはまったくの未知数だった。まさか、歌って踊るとは!」
それはこの世界にないものだった。この世界では生まれていないものだった。
この世界は病に侵されていた。
「無気力症」
やる気もやりがいもありとあらゆる熱意が失われてしまう原因不明の病。
恐るべき速さで世界中に蔓延していくこの病気は、人々から希望も想像力も奪っていった。
直接的な死の原因とならないからこそ、ゆっくりと確実に人類は衰退していく。
多次元宇宙論を証明できたのはいいが、こちら側に連れてきてしまったのは自分に責任がある。
晶葉は男(あちら側ではプロデューサーと呼ばれていたらしい)が来た世界をアース346と名付け、そこへ送り返すことを約束する。
「ニューエナジーキャプチャー」を起動し、開いたポータルにプロデューサーを放り込むが戻ってきてしまう。
「ふむ。条件があるのか?」
ポータルが開いた時のことを詳しく聞くと、どうやらあちら側の自分がライブというものをしていたという。
そしてそのステージ上には自分以外のアイドルもいたというのだ。ひょっとすると彼女たちが鍵なのではないだろうか?
晶葉は自分の説を立証するため、晶葉の研究を援助している女社長、桐生つかさの力を借りてこの世界にも存在しているであろう「彼女たち」に会いに行くことを決意する。もちろんプロデューサーを連れて。
世界経済を動かすアラビアの大富豪、ライラ。
人々を助けるために世界を飛び回るヒーロー、南条光。
異端の科学者、流浪のマッドサイエンティスト、一ノ瀬志希。
誰かを応援したいという気持ちを持ち続けた結果、家政婦派遣会社の社長になってしまった安部菜々。
アース346より一癖も二癖もある彼女たちを訪ね、実験への協力を要請する旅。
それはラボに引きこもっていた晶葉にとって、新鮮な体験だった。世界も人もまだまだ理解不能で、果てがなく、美しい。
新鮮な体験と言えば、アース346の音楽もそうだった。
すっかりアイドルのファンになっていた晶葉は、旅のお供に自分だけの音楽プレーヤーを作った。
ここではないどこかで生まれたアイドルたちの歌はゆっくりと世界に広がっていった。終末の世界は、ほんの少しだけ明るくなった。
ようやく晶葉のラボにライブのメンバーが集まった。条件は満たされたように思えたが、まだポータルは安定せず、プロデューサーを送り返すかわりにまた何かがこちら側にやってきてしまった。そのあちこち壊れてしまっているロボットにプロデューサーは見覚えがあるという。
「これは、池袋さんが作ったロボットです」
それはライブの日、アース346の晶葉がプロデューサーを追跡するため、咄嗟に放ったロボットだった。
それを聞いた晶葉はあるアイデアを思いつく。
アース346
「天才である私に天才である君の力を貸してほしい!」
多次元宇宙にもう一人の自分が語ったのは、荒唐無稽な、そう、まるでSFのような話。
しかし、晶葉は不思議と事態をすんなりと受け入れた。
話しているのが自分だからだろうか? それともプロデューサーの無事な姿を見れたからだろうか?
「さて、ここからが本題だ!そちら側に出口となるポータルを作ってほしいのだ!」
それは、ここではないどこかにいるもう一人の自分からの依頼だった。
「不可能なことのように思えるだろうか?しかし私はそれが可能だと確信している!なぜなら君は私だからだ!池袋晶葉は池袋晶葉を信じている!」
そう言って、もう一人の自分は笑顔を浮かべる。
「そもそもの原因を作っておいてよく言うな!あちら側の私は!だが……」
池袋晶葉も笑顔を浮かべる。少しだけ幼い笑顔を。
「やってやろうじゃないか!まだまだプロデューサーには手伝ってもらわなければならないことがたくさんあるからな!」
うさぎロボブラック(と呼ぶことにした)が持ち帰ってきた「ニューエナジーキャプチャー」のデータを応用し、ポータルの作成に取り掛かる晶葉。この世界には存在しない技術を解読しながらの作業は当然一筋縄ではいかない。しかし彼女は一人ではなかった。346プロには仲間がいる。技術面でも精神面でも彼女を助けてくれる仲間たちがいる。晶葉はポータルを作りながら、プロデューサーと初めて出会ったときから、ソロデビューが決まった今日までのことを思い出していた。
一方その頃、自身のラボで「ニューエナジーキャプチャー」の改良に取り掛かかっていた池袋晶葉はふと手を止めて、ラボを見渡した。
(ずいぶんと賑やかになったものだな)
勝手に自分の研究室を増設し、ゴロゴロと寝そべっている志希。余っていた白衣を拝借し、助手として手伝ってくれているライラ。ちゃんとご飯を食べなきゃだめですよー。志希ちゃんお腹冷えちゃいますよー!と世話を焼いてくれる菜々。自分が作ったものに目をキラキラと輝かせ、これまで思いつかなかったアイデアをくれる光。「ここいるとインスピレーションが溢れまくるから」と毎日のように会社を抜け出し、わざわざ晶葉のラボでチーズカツカレーを食べているつかさ。
晶葉はプロデューサーと初めて出会ったときから、ラボを飛び出し、世界を周った今日までのことを思い出していた。
ラボにはアイドルが歌う希望の歌が流れている。
「「できたぞ!」」
二つの世界がついに繋がった。
「池袋さん、あなたなら、あなたたちなら、きっと世界を救えるはずです」
「論理的ではない言葉は信じないようにしているんだが、まあいいだろう!ありがとう!プロデューサー!君は本当に素晴らしい助手だった!あちらでもより良い助手でいてくれ!」」
こうして、ようやくプロデューサーは元の世界へと帰還することができた。
そして、池袋晶葉には最後の仕上げに取り掛かることにした。晶葉はアース346のもう一人の自分に告げる。
「このポータルが閉じたら、そのマシンは封印、いや破壊してほしい。私もそうする。このマシンはあらゆる可能性を秘めているが、それと同時に恐ろしい危険も秘めている。だから、私たちの心が追いつくまで眠らせておくほうがよい。勝手なことを言ってすまない」
「何を謝っているのだ私!あなたの科学者としての決断を私は誇りに思う!……が、最後に一つだけ」
アース346の晶葉から晶葉へ、それは手渡される。一枚のコンパクトディスクとUSB。
「これは?」
「私の歌さ!私はアイドルだからな!CDが聴けるかどうか分からないから、USBにも入れてみたのだ!あ、聞くのはこのポータルが閉じてからに……」
「よし、さっそく再生を」
「やめるんだ!池袋博士!やめなさい!」
「ふっふっふ。それではまた、いつかまた、会おう。私」
「ああ、また会おう、私」
そうして扉は閉じられた。
「ニューエナジーキャプチャー」を停止させた池袋晶葉はしばらく自分の作ったそれを眺めた。
(一からやり直しか)
それから手渡されたCDに目を向けた。そこには楽しそうに嬉しそうに自信たっぷりに笑う、少しだけ幼い自分がいる。
「あー、やっぱりあっち側の晶葉ちゃんのほうが可愛く笑うにゃー」
「そうか?アタシはこっちの晶葉の笑顔も好きだけどな」
「どちらのアキハさんの笑顔も素敵だと思いますですよー」
「ふふふ。ナナは知ってますよ。ときどき晶葉ちゃんもおんなじ笑顔を見せるときがあることを!」
「……さて、研究に戻るかな!何から始めようかな!」
照れたようにそっぽを向き、コンピュータに音楽データを再生させる。
「ふっふっふ。一からやりなおし、それもまたいいだろう!」
池袋晶葉が高らかに笑い声を上げようとしたそのとき、桐生つかさが慌てた様子でラボに駆け込んできた。
「晶葉!あのアイドルソングってやつなんだけど、無気力症の患者に効果があるみたいで……!」
もう一人の自分の歌声がラボに響く。彼女たちの物語はまだ、終わらない。