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『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー(著)鈴木恵(訳)

自称「無法者」の少女ダッチェスと、過去に囚われた警察署長ウォーク。彼女たちの町に、かつての事件の加害者ヴィンセントが帰ってくる。彼の帰還はかりそめの平穏を乱しダッチェスとウォークを巻き込んでいく。そして、新たな悲劇が起こり……
人生の闇の中に差す一条の光を描いた英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。

素晴らしい読み応えの悲劇。ミステリィ成分は薄め。登場人物たちが見事に坂を転げ落ちる様が悪夢のよう。読んでいて辛いがページをめくる手が止まらない。ダンサー・イン・ザ・ダークみたいなラストを覚悟していただけに、ラストはやや拍子抜けだが、善とは、正義とは何かを読後も延々考えさせられる。
ちなみに、「翻訳ミステリ史上、最高のラスト1行。」というキャッチコピーはゴミなので無視しよう。全編素晴らしい。

海辺のど田舎(最近は別荘地になりつつある)で、過去の事故を引きずりなんとか生きてる母と娘と弟がいて、生きるため、舐められないため、やられたらやり返すしかない状況で、それが負の連鎖を生んでゆく。出所した男、不動産屋、近所の変態どもが事態をどんどん悪化させてゆき…。というお話。

序盤から過去の事件のお話で暗く、現代パートでも鬱々しており、読むのやめようかな、という気分になるのだが、主人公二人、警官のウォークと、上記の娘ダッチェスがあまりに善良なので、それらが中和された気分になる。魂が愛と善で出来てるのかと思うほど。(ただしダッチェスの愛は家族にしか向いていない。読後、これが少しでも他人に向いていたなら、と思わずにおれない。)
また会話がスマートで読んでいて楽しく、1章も短いのでリズミカルによめてしまう。なのでサラサラと事態が悪化してゆく。

「われら闇より天を見る」というタイトルは、地獄の底から美しい星を眺めてる切ない感じだが、原題は「終わりから始める」で、再起のお話。だれもがみんな、なんぞやらかしながらも生きてる。踏み出さなければいけない。なのだが、ダッチェスは前に踏み出しているのだろうか。というか、やらかしに気づけているだろうか。正直、かなりもにょっとしてしまった。(最下部に愚痴る。誰かと語り合いたいなぁ)
色々考えさせられる一級品の人間ドラマ。傑作に間違いなし。

全然関係ないが、文中にインチポンドが出てきたら、翻訳ついでに変換してくれよと常々思っていたのだが、本作、アメリカが舞台なのにkmで表示されてて、気持ち悪っ! て思ってしまった。どうしようもない。

以下、完璧にネタバレな感想。



良い雰囲気で終わったものの、一連の悲劇の原因はダッチェスなんだよなぁ。放火は明らかにやり過ぎだし。誤解だし。これと車の傷(これもとんだとばっちり!)がなければ誰も死んでない。コナン君なみに死を振りまいてるよ。
ヴィンセントとスターもこじらせてたが、時間が解決しただろう。おじいちゃんも同様。明らかに一家揃って暮らす未来があった。それをぶち壊してしまった。
真の被害者はダークだよ。何も悪いことしてない(殺しも正当防衛)。彼女に人生を潰されてしまった。
子供がやったことだからで済まないレベルだよ。環境が悪いとも言えるが、それはスターの生活能力のなさが原因だし、甘やかし続けたウォークの責任でもある。
ダッチェスがこの件を反省すらしてない、自覚のない様子がいちばんもにょっとする。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #ミステリィ

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