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『一行物語集 世界は蜜でみたされる』飯田茂実(著)

世界のすべての人びとを愛するために、彼女は電話帳を開き、ひとりひとりの名前を精魂こめて覚えはじめた。一行物語333編を収録した。

超ショートショート集。書き出し小説大賞のようにインパクト勝負ではなく、一文でなんとなくさまになっている。

333編とあるが、序と0も合わせると、335篇。大量にあるが、似てるのも多々あり。自分が読んで楽しむというより、いろんな人と、自分はどれが好きだ、という話で盛り上がってみたい。

自分が好きなの抜粋。

何も食べる必要がなく、路傍で石鹸水を飲んでは、口からシャボン玉を吹いて、さまよい暮らしている。
脇腹のぱっくりと割れた刺傷を押さえながら、爽やかな朝の湖岸で、せがまれて、子供たちと、命のかぎり、遊んでいる。
わたしが愛しているのはあなたの囲いこんでいるものじゃなくって、あなたっていう薄っぺらな膜なの、と水たまりに浮かんでいるあぶくが隣のあぶくに耳打ちした。
荒地を歩き疲れてふらついている女のまえに、見渡すかぎり布団が敷きつめられてあり、どの布団も水を含んでぐっしょりと濡れている。
俗物たちが賛美歌を歌っている脇を、聖人が流行歌を口笛で吹きながら通りすぎていった。
到着の日まで全員禁欲するという神への誓いを、乗組員のなかの誰かが破ったため、宇宙船は再び軌道を外れてしまった。

#読書感想 #読了 #飯田茂実

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