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『両京十五日』馬伯庸(著)齊藤正高(訳)泊功(訳)

1425年、明の皇太子・朱瞻基は遷都を図る皇帝に命じられ、首都の北京から南京へと遣わされる。だが、長江を下り南京へと到着したその時、朱瞻基の船は爆破され、彼の命が狙われていることが判明する。朝廷に恨みを持つ、反逆者の仕業なのか? さらに皇帝が危篤との報が届き朱瞻基は窮地で出会った、切れ者の捕吏・呉定縁、才気に満ちた下級役人・于謙、秘密を抱えた女医・蘇荊渓らと南京脱出と北京帰還を目指す。敵が事を決するまで十五日。幾千里にも亘る決死行が、今始まる。歴史サスペンス×冒険小説の超大作!

エンタメ超傑作!! 漢詩の世界で大冒険がめちゃくちゃ楽しい。さらに、バカがいないので展開が早く、ピンチに次ぐピンチで息もつかせない。それでいてギャグも多く、結構不意打ちで吹いた。なのにラストは渋い余韻が素晴らしい。万人におすすめ!

お話は明初期、北京から南京への遷都のため、太子である朱瞻基しゅせんきが南京へ赴任するも、いきなり爆破テロ。呉定縁ごていえんに救われるも下手人扱いされ…と出だしから最高。(ここまで試し読み可能)
味方はおらず、誰が敵かもわからぬ状況で、呉定縁ごていえん、科挙に受かるも頭が硬すぎて左遷されてる役人于謙うけん、謎の女医蘇荊渓そけいけいだけを頼りに、なんとか北京を目指す。政敵と白蓮教徒の追手を振り切り、果たして期限までに北京にだどりつけるのか? その距離約1100km!

上級のハラハラドキドキ、頭脳戦は言わずもがななので、それ以外の魅力を語ろう。

まず文章が良い。当然漢字が多い。名前だけでなく、地名、役職、等名詞が聞き慣れないし、日本の漢字を当てずに、ルビだけで訳したりしてるが、これが実に良い。詩情に溢れてる。断頭飯(死刑囚最期の食事)とか、郷勇(志願兵)とか、本当に漢字の素晴らしさが出てる。
粉骨砕身を物理的な意味で使ってるのも笑えた。ひょっとして元々はそうだったのだろうか。
言い回しも慣用句然としており、”虎に追われなきゃ深い谷は跳びこせねえ”とか、”ご利益がなければ早起きはしない”はいつか使ってみたい。

朱瞻基しゅせんきの境遇が酷すぎて笑える。踏んだり蹴ったり、という比喩が生ぬるすぎて使えない程。生きてるが、死体蹴りに近い。皇太子へのこの仕打ち(笑)と暗い笑いが止まらない。
この不敬は延々続き、下巻の葬儀シーンなどは不敬の極地で唖然としちゃったよ。
また、朱瞻基しゅせんきが若干迂闊なのも親近感が湧く。人並みなのだが、周りが賢いので阿呆にみえてしまう。人知れず赤面してたりと、ギャグにもなってるので、一石二鳥のキャラ。
そして全キャラが同様に最高。敵たちも素晴らしく、梁興甫、漢王の顛末には目頭が熱くなった。

構成も素晴らしい。ハラハラドキドキの合間の観光、蘊蓄が、ちゃんと内容の土台になっており、実に無駄がない。運河をゆく中、朱瞻基しゅせんきが物流、経済、人々の生活を心で理解してゆくのが読んでいて爽快。
そして、4人で死線を越え、仲を深めてゆくのも鉄板で最高だし(ほのかなラブロマンスも!)、これこそがラストへの伏線でぐうの音も出ない。若干ネタバレすると、北京で事件が解決しても終わらない。呉定縁ごていえん蘇荊渓そけいけい二人の過去と決着をつけることとなる。

壮大すぎる運河、香炉の誓いとか、もっといろいろ語りたいがきりがないのでやめる。

映画なんて10年以上行ってないが、これが映画化されたら絶対行くほどの傑作だった。不満は地図が付いてない事だけだよ。

ちなみに、どこまで史実なのかが気になる所だが、著者本人があとがきで解説してくれており、非常に助かる。
作中、朱瞻基しゅせんきが、助けてくれた船乗りに対し”後世の史書に書き入れられるだろう”と言っていたのに、書かれてないのが一番ウケた。

ちなみに、馬伯庸は中華アンソロの短編で既読。「始皇帝の休日」がギャグとして至高なので、そちらもオススメ。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #歴史 #サスペンス

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