『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット(著)吉澤康子(訳)
冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。──そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!
ティーン少女向けスパイ物かな。ドクトル・ジバゴをめぐる史実をもとにしたお話だが、ほとんど恋の話で、頭脳戦や銃撃戦といった、ハラハラ・ドキドキ要素は無し。ヨルムンガンドのヘックスみたいな気合いの入った女は出てこないので、そういうのが読みたい人は注意されたし。
お話は、美人だが自分をブスだと思いこんでる主人公がCIAの事務職(タイピスト)に応募したら、なぜかスパイとしても採用される。そこで若手エースに一目惚れされるも先輩女スパイに惹かれ…。といった西側の話と、ドクトル・ジバゴの作者パステルナークの愛人、オリガ視点でドクトル・ジバゴにまつわる苦難のお話が交互に語られる。
ドクトル・ジバゴは名前は知ってる程度だったので、それにまつわるドラマが非常に興味深かった。ソ連の監視の元、反体制気味の話を書いたせいで周りが収容所送りになるとか恐ろしすぎる。
それに引き換え西側のなんと平和なことか。女性蔑視やハラスメント、同性愛差別など、虐げられてきたアピールはあるものの、東の人権蹂躙の凄惨さと比較すると、まるでお花畑。
東と西の章は結局最後まで合流しないし、ラストも特に盛り上がらないし、残念な一冊。スパイ物ではなく、ラブロマンスとして売り出したほうがよかったのでは。