『人間たちの話』柞刈湯葉(著)
どんな時代でも、惑星でも、世界線でも、最もSF的な動物は人間であるのかもしれない…。火星の新生命を調査する人間の科学者が出会った、もうひとつの新しい命との交流を描く表題作。太陽系外縁部で人間の店主が営業する“消化管があるやつは全員客”の繁盛記「宇宙ラーメン重油味」。人間が人間をハッピーに管理する進化型ディストピアの悲喜劇「たのしい超監視社会」、ほか全6篇収録。稀才・柞刈湯葉の初SF短篇集。
『一九八四年』のパロディ『たのしい超監視社会』が傑作。この発想はなかったの連続で、この1篇だけで満足度100%。(とはいえ、大好きな『まず牛を球とします』が入ってないのはショック)
表紙絵はあらゐけいいち氏。文庫本のサイズと相まって、本がめちゃくちゃ可愛い。
以下個別感想。
冬の時代
氷河期の未来の日本で、夏を求め南へ旅するお話。
便利に使わせてやるから燃料の世話をしろ、という雪上機兼コールドスリープ装置のアイデアが光る。
旅するだけで、オチ等特に無く、P50の1行目が言いたかっただけでは? と邪推してしまうが、椎名誠『水域』へのリスペクトとのこと。
しかし主人公たち、疫病をばら撒いてる気がしてならない。ビルの人たちも発症して死んでしまい、メンテする人がいなくなる所を想像してしまった。
たのしい超監視社会
国民の監視を民間に委託、というか民間人同士で監視するよう変更した社会のお話。
Youtube や東京オリンピックを予想外の視点からこの話にぶちこんでおり、視点の鋭さに笑ってしまう。確かにツイッターとか○○警察とか、監視そのものだよね。
この発想力と切れ味、本当に大好き。ドラマやキャラにもこの切れ味がほしいなぁ。
人間たちの話
地球以外にも生命はいるか? というお話。それよりも、作者の生命論がメイン。
地球の生命は全部祖が同じなので、人類・生命みな兄弟というのは、比喩でもなんでもない、というのはやはり皆考えるのだな、とちょっと嬉しい。とはいえ、最初の生命が死にたくない、と思ったがために、今の自分があるのかと思うと悲しくなる。昔どこかで、「神に逆らう唯一の手段は、子を作らないことだ」という言葉をみて感銘を受けたのを思い出した。
宇宙ラーメン重油味
普通に宇宙人が登場し、銀河系辺縁でラーメンを食べるお話。
『人間たちの話』の後にこの話も持ってくるのが卑怯。そして宇宙人が普通に社畜で笑える。
しかしラーメンが普通。材料や製造法が科学実験じみてるだけで、特段驚きや笑いがない。おいしんぼとか味っ子のレベルでギャグに振り切ってほしかった。
記念日
部屋に突如巨大な岩が鎮座するお話。無視するかのように普通に生活するところがシュールで楽しい。
しかしこの石、いつの間にか動いてたり、写真を女友だちに見せると「おめでとう」と言われたり、いつのまにか雑炊が出来てたりするので、実は人間なのでは、と思わずにおれない。石女まで連想してしまうと、ちょっとネガティブな気分になってしまった。
全然本編と関係ないが「うるかす」という言葉を初めて見た。文脈で意味はわかるが、メジャーな言葉なんだろうか。
No Reaction
透明人間のお話。普通にイメージする透明人間ではなく、影響はうけるけど、与えられない、という設定が新しい。ダメージだけうける観測者。
この透明人間は同じ4次元の存在だが、もっと高次の存在が居るのは時々妄想する。人間が2次元を娯楽としているように、高次の存在からすると、われわれはただのコンテンツなんだろうなぁ。
あと、シャワーの話、痛いで済んでいるが普通に貫通して死ぬのでは? とさすがに笑った。
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