![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32461400/rectangle_large_type_2_cf106783c5fe43f371232937dae951c0.jpg?width=1200)
『影を呑んだ少女』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)
幽霊を憑依させることのできる体質の少女メイクピースは、母亡きあと、父方の一族の屋敷に引きとられる。メイクピースが生まれる前に亡くなった父は、死者の霊をとりこむ能力をもつ古い一族の出だったのだ。一族の不気味さに我慢できなくなったメイクピースは、屋敷を逃げだそうとするが……。『嘘の木』でコスタ賞を受賞した著者が、十七世紀英国を舞台に、逞しく生きる少女の姿を描く歴史ファンタジー。
今作も、自ら運命を切り開いてゆく少女の物語なのだが、独力ではなく幽霊達と難局を乗り越えてゆくのが面白い。特に熊。
主人公のピンチをこの熊が救うんだろうな、とは予想していたけど、想像より野性あふれる救い方で笑ってしまう。そしてこの取り付いた熊をなだめるために、意識のリソースを割かねばならないため、日常生活に支障をきたす様子は不憫だが笑える。シーッ! クマ!
しかしお話は非情で、母との別離、主人公の能力の由来、古い一族の謎、そして主人公に迫る危機、とハラハラが終始途絶えない。時まさにピューリタン革命で、主人公は、王国側、議会側とを転々としつつ、ペテンで乗り切り、ボロボロになりながら一族からひたすら逃げる。最後の決着まで、手に汗握り続けて疲れたよ。
また、「蜘蛛の糸を裂くようなささやき声」、「人間は慣れる生き物なので、地獄にも慣れるでしょう」など、表現が一々好き過ぎて、読んでいるだけで幸福。大好きな文章でジェットコースターのようなお話が語られるので、ハーディングの本は絶対一気読みしてしまう。
そして、毎度中世の様子がリアルに描写され驚かされるが、今回一番衝撃を受けたのが「串回し犬」。ハムスターの回し車みたいなやつで、串焼きを犬が回し続ける。ギャグかと思っていたが、ぐぐると出てきて史実と知る。イギリス人…。