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千春/紅もぐら
2021年1月17日 17:10
しんとした水面は凍っているかのような静けさをたたえて微動だにしなかった。これがすべて淡水だなんて信じられないな。それが初めて琵琶湖を目の前にした感想だった。湖の西側を走る車窓からは海のように広がった湖面が見えていた。そこには海にはない透明感が漂い、ある種の色気のようなものがあった。祐司は揺れる新快速で北に向かっていた。用事は顧客先への訪問だったが、多忙な仕事で張り詰めた神経に束の間の休息を与える