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月灯りの下で 「出会い」

数か月前
「僕…さゆり先輩のことが…好きです…」
切り出したのは僕の方からだった。
友人に誘われて大学のテニスサークルに入り、僕はさゆりに一目ぼれした。
短い髪、整った端正な顔つき。
当然、恋愛がしたくてサークルに入ったわけでもない。僕のとある友達は大学に入っては不埒なことばかり考えていたものだが、僕はそこまで性的なものを大学に求めているわけではなかった。
でも、見入ってしまった。髪をかき上げるその仕草に。その横顔に。
初めは僕の片思いだった。当然、さゆりは既に他の男にたくさん告白されていて、僕の事なんて眼中に無かったと思っていた。
さゆりは毎日いるわけではなく、週1でサークルの活動に参加していたが、さゆりの活動時間は短く、長くても1時間というところだった。
ある日、何となく、僕はさゆりに話しかけてみたくなった。なぜかは分からないが、今日を逃したらもう二度と会えなくなる気がした。
「あの、さゆり先輩…」
「…?」
帰ろうとするさゆりを引き留める。さゆりが振り返る。
「…テニスサークルの子かな?…ごめんね…今日は--」
「なんか…思いつめてませんか?」
「…え?」
「いや、え…ええと、何か今日のさゆり先輩の顔見てたらそんな風に感じて、それで…」
「そっか…私、そんな顔してたのか... 君、名前は?」
「富谷凪人です」
「凪人君。まだ1年生かな?ここで話すのもなんだから、一緒に帰ろうか」
「え?いや…はい」
「勿論途中までだよ。家までついてきたらストーカーだからね」
冗談なのかそうでないのか分からないその物言いはなんだか可愛らしく凪人の心をくすぐった。
「さゆりさんは何で毎回ちょっとしかサークルにいないんですか?」
「持病があってね。長くは運動できないんだ。でも、運動するの、好きだから」
「そうだったんですか…」
「そう…」
「あの…さゆり先輩…今日会うのが最後かもしれないんで言わせてください。僕…さゆり先輩のことが…好きです…」
さゆりは驚いた顔をした。
「君すごいね。今日でサークルに来るのは最後のつもりだったんだ。医者に過度な運動は避けるように言われてね」
「…」
「…わかった。いいよ」
「え?」
「私ももう長くはないから。最後には面白そうな君をパートナーとしよう」
「え?…もう長くない…?それって」
「私の病気は珍しくてね。今まで私が罹った病気になった人はみんな若くして死んでるんだ今はまだ大丈夫、といっても普通の人よりは動けないんだけど、徐々にこの病が私を蝕んでいってしまいには死んでしまう」
「…そんな…そんなの」
「だからさ。凪人君。せいぜい私を楽しませてよ」
その口調はどこか他人の話をしているようであり、さゆりは自分が死ぬことに対して恐怖を感じていないように思えた。
「…最善を尽くします」
「ふふっ。何その言い方。じゃあ私こっちの道だから。あっ、そうだ連絡先交換しとかなきゃ」

こうして僕らの関係が始まることになった。
あの時のさゆりはとても優しくて可愛くて、天使のような存在だった。
僕はさゆりと一緒にいるだけで、何でもできる気がした。

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