短歌おきば 2023
風寒み春はまだしと白雪のかをらぬ枝もやがて初花
さびしさは氷る空よりささめ雪ふる巣にむせぶ谷のうぐひす
散りゆくを花は蕾も固き間にならふか雪のこぼれては降る
月影は友かあらぬか春風もこころ吹きあへぬ思ひ寝の空
見し花は夢と別れし梅が枝に露おきそへて春雨ぞ降る
ひさかたの雲ゐにほふと見し花の散るにむなしき空ぞ晴れゆく
桜花さそふ夜風のほのかにて月影ふかき空のささ波
思ひ出づる夜のいつともなき風をブルンフェルシア夏は来にけり
淡きまま芽とも知られで経し夏をアガパンサスや恋の墓守
群雨の香を吹き払ふ風の上にふかき夏野を照らす月影
夏風は夜にも残れど虫の音の高き草間に秋ぞ立ちける
かき暗れし空にとだゆる秋の夜の夢より出づる月の眦
入日さす影の梢の音さびて秋吹きそむる風の通ひ路
立つもなほ秋吹きあへぬ風のうちに咲かぬ桂花を恋ふる夕暮
来ぬままに荒れし月夜をきりぎりす鳴くやかなしき蓬生の底
面影を月にながめてまつ風のわざとも吹かぬ秋の夜のこゑ
夕暮に振りし袖かは花すすき君なき野辺をただ秋の風
口よなほ千たび八千たび深き夜を落ちくる空の星まがふまで
いちゃう照る空はその葉のさらさらに散るやなごりも風にまかせて