コンサルを卒業して10年経ったいま改めてコンサルを振り返る
「戦略コンサル」とはいうものの、実際に「戦略構築」を行い、「経営者」になる道はなかなか開けてこない。コンサルとして勤務した後、事業会社へ転職し10年以上。コンサルの価値とは何であったか、なにを学び、元コンサルのキャリアはどう歩むべきかを考察してみた。
コンサルで学んだことは何だったのか
コンサルといえば、経営分析のフレームワークをもっていて、これに基づくと素晴らしい戦略ができるという夢の世界を抱く若者も少なくはないと思う。しかし、「3C分析」や「SWOT」というような経営分析フレームワークは、今の時代、AIに聞けばだいたいやってくれて、Amazonで当たり前のように売られている知識であり、コンサルに何千万円といったフィーを支払って入手しなければいけない知見ではない。
では、コンサルの力、またコンサルで得ることができる力というのはなんであったのか。若手のコンサルの能力はエクセル分析やパワポの資料作りといったものが挙がるが、こんなものはいずれAIによって置き換えられてしまう力だと思う(実際は事業会社で役に立つ能力ではあるが)。また、経営フレームワークは上記の通りで意味があるものではない。そうなると、コンサルの最大の武器は、「考える力」に尽きると思う。情報や考えを整理する「構造化」構造化の力もひとつの考える力だが、持っている情報やデータ・分析から仮説的に考えてこれを具現化していく。同じ情報やデータを持っている人でも、ここから得られる内容がまるで異なる。また同じ話を聞いても、どこまで真意を理解できているか。これはまさに「考える力」であり、コンサルを経験することで得ることができる最大の力だと思う。
コンサルの価値
コンサルを卒業して10年以上、いわゆる事業会社で経営層として働いた経験を元に思うコンサルの提供価値とは、以下の4つになるのではないかと思う。
1.わからないことをわかる: コンサルを使う中でわかりやすく価値を提供してもらえるのが、これ。例えば、海外市場参入や新規事業立ち上げ、M&Aの際のデューデリジェンスは、これにあたる。自分達が知らない市場や情報を収集し分析してもらう。わかりやすくバリューが出るプロジェクトだと思い、コンサルの実際の需要の多くはここではないかと思う。
2.大体わかっていることを整理確認する: 案外プロジェクトとして数があると思うのがこれ。既に現場から情報は入っており、状況は把握できているが、しっかりとデータ等でまとめきれていない。また、銀行などのステークホルダーへの説明が必要なケースや、説得をするのに第三者のコンサルの意見が有効なケースはこれにあたる。コンサルを雇う方としては”面白みにかけるプロジェクト”ではあるが必要なケースも実際存在する。野党側の難敵は、コンサル側のやる気に満ち溢れたクリエイティブな結論で、自分たちの意見を通すためのコンサル登用なのに全く別のことを言われると無駄金払った感が拭えない。コンサルプロジェクトで揉める1つのケースもここにあると思う。
3.やりたいことがあるがリソースが足りない: 元コンサルの事業会社の人間がコンサルを使う場合はこれなことが多い。既に仮説はあり確度は高い。しっかり実行していけば成果は出る自信がある。しかし、社内にこれをできる人間はおらず、採用も困難なケースは、コンサルの力を使って、プロジェクトを進めていくこともある。コンサル漬けになりやすいプロジェクトもここで、PMO(Project Management Office)としてコンサルを常駐させてビジネスを回すような形になっていくことが多い。
ここまで見て、わかるのは、事業会社側のど真ん中になるようなビジネスの「戦略策定プロジェクト」は実際ほとんど存在しないのである。メインのビジネスは既に社内に知見があり、既にやっている人間も多く存在する。この戦略を改めてコンサルに外注しようとする人はおらず、これを外部へ説明する際の取りまとめやPMOとして管理・企画機能を依頼するといったにとどまるケースがほとんどである。では、コンサルが実際にクライアントのメインビジネスの戦略策定に関わっていないかというと、必ずしもそうではないと思う。これが最後のコンサルの提供価値の形であり、ディスカッションパートナーとしての価値である。
4.ディスカッションパートナー: この価値は人工(にんく)を売るコンサルにとってお金になりにくく、旨味のある価値ではないが、コンサルを使う側としては、重要な価値だと思う。経営者達が頭の中に整理しきれずにある情報や考えを誰かと議論することによって再整理をしていく。また、自分の考えとは別の新たな視点になりうるようなヒントを得る。これはコンサルとのディスカッションで得られることが非常に多いと思っており、コンサルの価値としては最大の価値ではないかと思う。しかしながら、これらは何名もの若手を含めたコンサルを雇って数ヶ月をかけなければ得られないものではなく、1時間のディスカッションの中で得られるものであるがゆえに、「プロジェクト化」は非常にやりにくい。それでもプロジェクトとして仕立てていくのがコンサルのパートナーの腕の見せ所だとは思うが、事業会社側の視点ではやはりディスカッションパートナーとしてコンサルを使うというのが大きな価値だと思う。
ビジネスとしてのコンサル
コンサルというと、クライアントの事業課題に向き合い、解を出していく、そしてそれを戦略や施策という形に落とし込み、ときに実行の支援を行う。この考え方が一般的かと思う。コンサルを辞めていくひとの多くは、「事業主側へ…」というクライアント側で実際にビジネスを行うという選択をする。
しかしながら、コンサルも「コンサルビジネスを行う」という意味で事業主であり、実行する側である。では、コンサルビジネスの戦略としてあるべきはどういう姿であろう。
ひとつよくコンサルで言われるのは、「コンサル漬け」という状態である。クライアント企業のオペレーションの中に入り込み、日々の業務をコンサルが担うことで、コンサルを外せない状態のことだ。単発の戦略プロジェクトとは異なり、継続プロジェクトとなるため、売上も安定し、コンサルタントの稼働率も高まる。クライアントはコンサルフィーを年間予算化するのでビジネスの継続性は高い。人件費という固定費ビジネスを行うコンサルの収益を上げていくのに最適な方法のひとつである。戦略プロジェクトの後半になると売上責任を持つパートナー陣は、どうオペレーションとして継続プロジェクトに落とし込むのかを一所懸命考えているのを記憶している。当然このコンサル漬け状態には賛否がある。コンサルとしては、クライアンが自走する状態までもっていくべきではないかという思いがある。コンサルタントにとっても、オペレーションのプロジェクトは人気のあるプロジェクトではなく、みんな戦略系のプロジェクトを好む。また、「戦略系コンサル」を名乗ることで高いフィーをもらい、オペレーションの入り口になる戦略プロジェクトを獲得していくことも必要だ。
こうした状況を含め、言われているのは、「戦略2:オペレーション8」という状態だ。戦略プロジェクトでコンサルのモチベーションを高め、戦略コンサルとしてのブランドをつくり、オペレーションの入り口をつくる。同時に、オペレーションのプロジェクトで収益基盤をつくり、コンサルビジネスの成長を実現するのだ。
ポストコンサルのキャリアの歩み方のススメ:企画部門への引力と戦う
では、こうしたコンサルの世界を経験してきた人がどのようなキャリアを歩むことが多いのか。統計を作ったことはないが、感覚的に最も多い、また大多数のキャリアは「企画部門」だと思う。いわゆる「経営企画」や「営業企画」、また「社長室」といった部門が企画部門にあたり、これが元コンサルを採用していく部門の中心にあると思われる。上記の「コンサル漬け」のコンサルを内製化するようなイメージを持ってもらうのが良いと思う。
ただし、この「企画部門」がコンサルを志した人たちがやりたい仕事なのだろうかというと疑問が残る。コンサルを志す人の多くは「将来は経営者になりたい」、またコンサルから事業会社へ転職する人の多くは「戦略を実行する側へいきたい」という理由だと思う。しかしながら、「企画部門出身の経営者」は少なく、「企画部門で実行まで行う」ということは起きないのが実際の状況ではないか。つまりコンサルの志は事業会社へ転職しても叶わないことが多いということである。
では、当初のコンサルの志、「戦略を実行まで責任を持って行い将来は経営者になる」ためには、やはり事業側へ飛び込んでいかねばならないのである。これは「営業」であり、「事業開発(パートナーシップ)」であり、または「起業家」といった、ビジネスのフロントラインに立たないといけない。いわゆる「戦略」だけでは、志は実現できないのである。しかしながら、「コンサル=企画部門」の流れは非常に強く、元コンサルは引力が働くかのように企画部門に吸い寄せられてしまうのである。故に、将来経営者を志し、戦略を実行まで担うためには、この企画部門引力と常に戦い、事業のフロントラインに立ち続けるようなキャリアを意識し、また強く固執しながら構築していかないといけない。