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「キャリアコーチ」の必要性と蓋然性

「キャリアコーチ」というビジネスを始めた知人がいる。すごく良いコンセプトで必要な機能だとは思うものの、果たしてビジネスとして本当に成り立つのかという疑問もありつつ少し考えてみた


転職エージェント

テレビCMでよくお見かけする「転職って誰に相談すればいいの?」という問いに、シンプルに答えると「転職エージェント」ということになると思う。転職エージェントで検索すると総合系、金融に強いエージェント、コンサルティング専門エージェント等、多くのエージェントがつらなってくる。
エージェントは、テレビCMにあるように、キャリアの相談にのってくれて、希望の職種やポジション、年収に落とし込み、データベースを叩いて合致する案件を紹介してもらえる。しかも求職者は無料。これが典型的な転職の流れである。
こうした大手のエージェントは、案件数も多く、幅も広いため、総合的なキャリア相談に乗った上で、適した案件を紹介してもらうことができるという点で、転職を相談する上では適した業態かとは思う。

LinkedInによる転職市場の構造変化

一方で、LinkedInの登場と浸透は、転職市場に大きな構造変化をもたらしていると実感をしており、この波は徐々に日本の転職市場にも影響を与えつつあることを感じる。
ご利用の方は既にご存知かとは思うが、LinkedInでは、ユーザーがキャリア経歴(ほぼレジュメ)を乗せ、かつ求職意向を記すことができる。当然、リクルーターもユーザーもユーザーの検索可能であり、「Googleで勤務しているひと」といった人物をさぐり、コンタクトをしていくことが可能だ。
これにより求職者のサーチが圧倒的に行いやすくなり、従来転職エージェントが有した機能の「求職者リスト」がLinkedInに代替されることになった。
このLinkedInの登場により、転職市場に大きな動きが起きたのは、①社内リクルーターの登場、②ブティック系エージェントの登場であると思う。
①社内リクルーターとは、採用側企業が転職エージェントを使わず、社内リクルーターがLinkedIn等を用いて直接求職者へアプローチをするという形態である。常に求人ポジションがある成長企業や外資系企業を中心に同仕組みは浸透をしていき、転職エージェントで働いてた人が求人企業へ転職するという流れができてきた。社内リクルーターの最大のメリットは企業の内部をよく理解していることにより、求職者とのマッチングが高い質でできることである。求人企業の内部の人間として常に同企業の採用を行っているため、必然的に求められる人物像をイメージしやすくなり、採用効率もあげていくことができる。
②ブティック系エージェントは、大手転職エージェントの優秀なエージェントが独立して、小規模のチームで採用を支援するエージェントである。LinkedInの登場により、TVCMをやって求職者を集める必要がなくなったことで、転職エージェントが独立しやすくなったことが背景にあると思う。マーケティングコストや本部コストも不要なため、年間に数件案件が決まれば十分な収入になるため、優秀なエージェントほど独立するといった傾向が加速してきたのだろう。
LinkedInの登場をきっかけに、こうした社内リクルーターとブティック型のエージェントにより転職市場の構図はまたおおきくかわってきており、日本でも今後一層進んでいくと思われる。

転職エージェントの限界とキャリアコーチ

さて、こうした転職市場の変化の中で、求人企業は社内リクルーターで直接採用をしたり、ブティックエージェントを活用する流れが起き、大手転職エージェントは必ずしも求人リストという観点でも盤石でなくなりつつある
求職者も、既にテクノロジー業界を始めとする一部で起きている転職活動の新しい形は、「LinkedInで声をかけられるのを待つ」「LinkedInに乗っている求人に応募する」といった形にシフトしつつある。
この環境下で「転職って誰に相談すればいいの?」という問いに答えを出すのが、「キャリアコーチ」という立場になる。総合大手転職エージェントがまだマジョリティである現在でも、中長期のキャリア設計や持っている案件ベースではない中立的な相談という意味でも、こうしたキャリアコーチというものの意味合いは十分にあると思うが、更には社内リクルーターとブティック系エージェントの登場で、キャリアコーチの必要性は高まっていくことが用意に想像される。
社内リクルーターは当然自社を勧めてくるし、ブティック系エージェントは市場全体をカバーするのではなく数社に特化した紹介型エージェントである。頼みの総合系大手も求人で十分ではない中で、頼れるのは自分自身であり、自分で出てくる求人機会を検討し、キャリアを描き、意思決定をしていかなければならない。この環境下で、共にキャリアを考えてくれるパートナー、議論の相手となり、市場の状況を教えてくれる、こうしたパートナーが必要となって来る。また、最終的な意思決定と責任は自分自身にあるため「コーチ」という形が最適な印象をもった。

キャリアコーチの蓋然性と「労働市場改革」

しかしながら、懸念されるのは「経済的な蓋然性」である。前述の通り、転職エージェントは無料で求職者の相談に乗り、企業から紹介手数料をもらう仕組みでビジネスが成立している。この求人モデルがLinkedInの登場による転職市場の転換により、成り立たなくなってくる。独立した「キャリアコーチ」の必要性の高まりはあるが、どのようにビジネスとして成立できるのか。求職者が個人として支払える「コーチ料」は限界があり、キャリアコーチを生業(本業)とした際に、生計を立てていくだけの収入を得るのはかなり困難なことが想定される。
そこで、ひとつ考えられるのは、政府が推進する「労働市場改革の柱としてのキャリアコーチ」という可能性である。政府が労働市場改革として推し進めたいのは、「労働市場の流動性」を高める施策である。所属する企業の中だけにとらわれず、他社を含めて「自律的にキャリアを構築する」というマインドの下、キャリアコーチの力を借りて、キャリアを推進していく。これが労働市場の流動性を高め、労働市場改革を進めていくにつながるのではないかと思う。具体的に政府が補助金を出すのか、政府系のキャリアコーチ機関が必要なのか、もしくは企業にキャリアコーチの提供を推進するのかはわからないが、昨今起きている「労働市場改革」の1つの柱に、キャリアコーチが果たせる役割は大きいのではないかと思う。

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