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それでも僕は道化師をやめない。

好きな人がいる。職場の同僚、別部署の所属長だ。相手にも家庭があるが、お互い仮面夫婦である。彼女の目線から見れば、僕はまだまだとのことであるが。

そんな彼女に、好きな人ができた。年下、利益相反の無い他職種とのこと。話を聞くだに誠実な人だ。そもそも彼も好意があるから、彼女とコンタクトを取っただろうから、世の中で言う両想いだ。あとは社会的な背景の整理だけ。

そして、彼女は僕に相談をする。他所では言えない、社会的にも家庭的にも責任のある立場の漏らす小さく大きな泣き言。

胸が抉られる。聞きたくも無いと暴れ出す心。俺の前で、そんな男の話をするな。叫んでいる。耳を塞ぎ、目を潰したい。唐突に駆られる欲望。ダメだダメだダメだやめろやめろ。

そんな心を裏腹に頭は動く。彼女の幸せは何か、何がデメリットか。何がメリットか。不確定要素は何か。ネゴシエーションの観点から、彼女にとっての最適解を弾き出す。

そして言葉は論理で紡がれていく。損得だけのzero-sum gameを勝ち抜くための戦略を理路整然と流れるように言の葉にする。感情はある。とびきり強くて、焦げ付くような、黒い太陽が内側を照らす。どうして良いか分からないから歯を食いしばる。

好きな人に最大限の貢献をして結果として自分が掻き乱される。何処かで破綻した構造であると、どうして気付かないのだろう。側から見れば、滑稽でしかない構図なのだろうが、当事者は気付かない。いや、何か変だと気付けながら、その正し方が分からないのだ。

何かに似ていると思ったら、クラウンだった。暗くなったモニターに映る自分の顔を見て泣いているような笑っているような、妙な感覚を抱いた。他の生き方を選択できないから、せめて上手に道化になろう。

願わくば、彼女が幸せでありますように…

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