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三谷幸喜の「蒙古が襲来」を観たけれど。という話
東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」(パルコ・プロデュース2025/渋谷PARCO劇場にて3月2日まで)を観に行った。
巷では評判がいいようだが、以下、あくまで勝手な感想。ネタバレあり。ただし、逆張りのつもりはない。同劇団の活動後期から夢中になっていた僕としては絶賛記事を書こうと、楽しみに出かけたのだから。
相島一之さん阿南健治さん梶原善さん小林隆さん近藤芳正さん西村まさ彦さんなど、今やそれぞれ売れっ子役者になったサンシャインボーイズのメンバーたちが一堂に会して、三谷幸喜さん書き下ろしの戯曲をかつてのように演じる。それだけでもチケット代11,000円に充分値するとは思う。
あれから経験も味も身につけた演者たちが、キャストの多さからときにガヤのような存在になるのがもったいないくらい。そして吉田羊さんはあれでいいのか笑。
逆に言えば、それだけである。
物語はメッセージ性があり、時代への警鐘も反戦の訴えも人の営みの儚さも確かに描いたが、「平凡な日常が突然侵される」という主題のためかラストまで起伏に乏しい。以前より明らかに話のスケールも舞台セットも大きいのに、逆に小粒な印象を受ける。勢揃いした元団員たちの演技も通り一遍で精彩さに欠けた。
「12人の優しい日本人」「ショウ・マスト・ゴー・オン〜幕を下ろすな」「ラヂオの時間」といった数々の名作と違わぬ爆笑コメディを期待して来場したせいもあって、時代物が苦手という個人的事情を差し引いても正直かなり首を捻る。
最後にみんなで歌い踊るテーマ曲「どんちゃんの歌」に至っては全く意味不明。ファンサービスのつもりだろうか。
苦労してプラチナ・チケットをゲットした甲斐は残念ながらあまりなかった。
満席の場内からは無論、時折笑いが起きるが、つまるところ「今や大作家の三谷さんが書いた喜劇だから」「有名な人もたくさん出てるし」「笑いたいから小ネタが来たら笑う」的な、必死にありがたがって味方になってくれる甘い客層の上に成り立っているお祭り興業に過ぎないと感じた。そして作演出がそれを無意識に見込んでの思い上がった作劇は、ほとんど退屈だった。
設定が鎌倉時代の漁村ゆえメイクと和装があるわけだが、年齢を重ねた、枯れたら枯れたなりの「今のサンシャインボーイズ」による「現代劇」が見たかったのはたぶんに好みの問題である。が。
若かりし小劇場時代に「この作品が不評だったら無名な自分たちは後がない」という悲壮な覚悟で臨んでいたからこそ、練りに練られた緻密な台本で寸暇を惜しむかの如く客席を笑わせにかかり、結果的に大成功した往年の出世劇団。
これらのことへ思いを馳せれば、お客様に下駄を履かせてもらうと芸は弛緩しかねないのだと、そういう意味では勉強になった。もちろん、これは演劇のみならずエンタメ全体に言えることだと思う。
いや、同じ脚本家の僕には履かせてもらえる下駄なんか一足もないから、単なる僻みでしかないんだけれど(^_^;