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小寺の論壇:「イマスグヤメロ」は不適切か。クラフトワークの演奏に対する誤解

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今年のフジロックに出演を果たしたクラフトワーク。だが日刊スポーツの記事によれば、昨年3月に亡くなった坂本龍一氏を追悼して「Radioactivity/放射能」を坂本氏監修の日本語歌詞で披露したことで、反感を呼ぶこととなった。

・「フクシマ放射能」「今すぐやめろ」フジロックでのパフォーマンスにSNSざわつく(日刊スポーツ)

ただ、この記事にしても、反感の声を上げた人にしても、あまりにもこの曲の背景を知らなさすぎて、悲しくなる。「無知」を武器にして、人を殴りつけてはならない。

今回はこの曲に横たわる、長い背景をお話ししたい。

■クラフトワークの「放射能」とは

クラフトワークの結成は1970年に遡るわけだが、当初はミニマルミュージックやミュージックコンクレートといった、実験音楽的な指向だった。ヨーロッパで評価され始めたのは、1974年の「アウトバーン」からである。以降のアルバムは、テクノロジーに関するテーマを持った作品が中心となっていく。

クラフトワークはテクノポップの先駆者と表現されることも多い。日刊スポーツの記事にも同様の紹介があるが、テクノポップは1979年にYMOの「SOLID STATE SURVIVOR」のヒット以降に発生したカルチャーだ。筆者はこのとき高校生で、YMOの登場でこのムーブメントが発生していく過程をリアルタイムで体験している。

一方、クラフトワークはその10年前から、シンセサイザーとシーケンサーによる音楽をやっており、当時はノイ!やタンジェリン・ドリームらと一緒に、ジャーマン・プログレッシブ・ロックと呼ばれていた。それらはいわゆる「電子音楽」とは区別されていた。

当時の電子音楽は、ウェンディ・カルロスに端を発し、冨田勲やジャン・ミッシェル・ジャール、マイク・オールドフィールドのようなクラシックやアカデミック文脈の大作を指しており、明らかに「ロック」ではない。

そんな中で1975年に発売されたのが、アルバム「放射能(RADIOACTIVITY)」だ。楽曲「放射能 - Radioactivity」は2曲目に収録されている。

アルバムタイトルの「RADIOACTIVITY」は、間にハイフンを入れなければ放射能という意味だが、「RADIO-ACTIVITY」とハイフンで繋ぐと、ラジオ活動という意味になる。当時彼らは、自分たちの楽曲がヒットしてラジオから流れてくることにインスピレーションを得て、ラジオ活動と放射能の掛け詞としてこのアルバムを制作した。楽曲も、放射能に関するものと、ラジオに関するものが半々となっている。

また放射能は好むと好まざるにかかわらず受信してしまうものとして、第二次大戦時の、ラジオを使ったドイツのプロパガンダの比喩としての意味もあった。ドイツ人らしい反省と批判があったものと思われる。

当時のオリジナル楽曲「Radioactivity」は、放射能の特性を客観的に歌っているに過ぎない。もともとクラフトワークは、楽曲で何かを主張したりすることの少ないグループだ。この曲、というかアルバムは特に注目されることもなく終わっており、ヒット曲が出た次作「ヨーロッパ特急」の間に挟まれた、谷間のような作品になっている。

この楽曲の変化が確認されたのは、1991年のリミックスアルバム「The Mix」に収録された新バージョンだ(その前からライブ等ではすでに新バージョンになっていたのかもしれないが、確認できない)。1991年の新バージョンでは、楽曲の冒頭でボコーダーによる新しい歌詞が追加されているが、ここで語られているのは以下の4都市である。

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