GLOCOM豊福先生に聴く、「どうなる? AIと教育」(3)
毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。
今回の対談は、国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主幹研究員の豊福 晋平先生にお願いしている。
学校教育の中にAIを取り入れるというのは、世の中的にはほぼ待ったなしだと言える。だがニュースなどで取り上げられるのは、極々一部の、いわゆる「スーパー先生」がいるクラスだけの話で、現実はかなり遠い話である。
長年コンピュータと教育の関係を研究してきた豊福先生からみて、学校教育内にAIを取り入れる道筋は、どのように見えているのだろうか。
(全5回予定)
小寺:例えば学校にAIを導入するということになったら、数学なら数式を入力して答えがパンと出るような使い方をさせないっていうか。「この問題がわからないんだけど、ヒントをくれ」みたいな使い方をしていかないと、自分の成長にならないじゃないですか。
豊福:その通りです。
小寺:だけど、そこは、「ヒントを出してくれ」って質問者側が入力しなければそのまま答えを出してきちゃうので、AI側には事前に、ストレートに答えを出してこないような、ヒントを出すようなふうに対応してくれ、みたいな、いわゆるガワを被せたAIみたいなものが提供されていくのかな、という気がしてたんですよね。その可能性ってどうですかね。
豊福:あ、それ、プロンプトエンジニアリングの中にすでに出てきてますよね。ステップバイステップで答えて、とかって言うと、より細かく教えてくれるみたいな。
小寺:はい。それがいわゆるデフォルトになっていて、初期状態でそれがセットされてるAIを子供が使うというようなところから始めるのかなっていう気もしてるんですけど。
豊福:それはありだと思うんですけど。たださっき言った通り、現状を考えると、キーボードが使えてない。
小寺:あー、そこかー。
豊福:学校ってね、すごい惨状なんですよ。できてないところは。パソコン使えてない、というか、保管庫からほとんど出してないから。「ID? 子供にID出してないよ」「え、メール? チャット? そんな子供が自殺するような危ないもん渡せない」って。こういうレベルですよ。
小寺:まあ全部が全部そうじゃないとしても、レベルの低いところはそんか感じなんですか…。
豊福:そういう、どうしようもない状態でAIをいきなりぶっこんだら大変なことが起きるんです。まずこれがあってね。その上にかぶさってくるのは、AIはハルシネーションがあるよねって。出したものに対して答えが返ってくるきて、一見もっともらしいんだけど、けっこう嘘が混じってるよと。で、これをファクトチェックとかって話で――文科省も書いてますけど。これが第2弾。
小寺:うん。
豊福:で、「もの」そのものに対して答えるというのは、実はAIはあんまり得意じゃないっていうか。自分たちを騙しにかかってくる。じゃあ使えないのか? いや、そんなことはない。
ある問いに対して返事を返してくる時に、最初に結論を言って、3つ項目を並べて、最後にもう1回繰り返して結論を言う、というのはAIは得意ですよね。ChatGPTはそのやり方で返してくれるんですけど、あのやり方はあんまり日本の学校で教えてない。
国語の中のいわゆる論文とか、そういう回答のやつでも、ああいう構造的な返し方って、レトリックとしてあんまり教えないんですよ。
小寺:うーん、確かにそうかも。とにかく書かせて失敗させて、の繰り返し。
豊福:最近の高校生はわかんないんで、聞いてみてください。やってるかもしれないから。で、もしやってないとすると、「あ、この答え方自体はすごく理路整然としていいな。じゃあこの構造をそのままパクろう」と。これはオッケーなんです。
じゃあある部分をより細かく聞いていった時に、本当にそれは嘘がないのか、自分の持ってる仮説ってものをちゃんとバックアップしてくれるのか、「ここは怪しいですよ」と言ってくれるのか。このレベルでやり取りをするっていうところには、ものすごくAIは威力を発揮してくれる。これが次の段階です。
小寺:うん。
豊福:で、僕、これを思考の壁打ちって言ってて。要するにけっこう頭のいい弟子がいて、自分が思ってることを「これってこういうふうに思ってるんだけど、どう思う?」って聞いた時に、「いや、先生、それ違いますよ」「ここは危ないっすよ」とかって言ってくれるわけですよ。これはすごく勉強になる。そのレベルに行ったら、自分でプロンプトを考えて、より複雑な構造っていうものを与えつつ、1つのものを組み上げていく、というものはたぶんできるんです。でも、それを始められるのはね、中学生ぐらいから。
小寺:そうですね、中学生……でもな、構造とかわかるかな? っていう気もちょっとするんですよね。
豊福:うん。トレーニング次第です。
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