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ネットからリアルへ。川井拓也さんに聞く、「モノとコトの融合」(6)
毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。
「絶滅メディア博物館」館長、川井拓也さんをお迎えしての対談も今回で最終回。
昨今は2025年問題として、来年にはVHSが再生できなくなるかも、というのが話題になっている。メディアの絶滅である。その背景にはハードウェアの絶滅があるのだが、なくなって困るのはハードウェアではなく、メディアの中身だ。
一方で、中身に貴重なものを記録したからこそ、そのメディアには特別な思い入れが発生する。それは記憶として風化しないものだ。特にそれを手にした瞬間、甦ってくる。
多くのものがクラウドへ吸い上げられている昨今、VHSに限らずメディアというもの全体が終焉を迎えつつあるのだと思う。そうしたタイミングで登場した「絶滅メディア博物館」の在り方と、今後どうなるのかを伺っていく。
小寺:編集学という学問があって。編集ってビデオ編集とか雑誌の編集とかいろいろあるんですけど、それをもっと広義に広げて、生活とか、ライフスタイルとか考え方に応用していきましょう、みたいな考え方なんですね。
結局編集とは何かというと、活動の方向性をなるべく短い言葉でぎゅっと圧縮して象徴的に語ってしまう。他の人がその圧縮されたものを展開した時には、元の形には戻ってない、違うものへ連鎖していくという、そういうことなのかなと思ったりするわけですよ。
で、川井さんがやってるのは、編集だなと思うわけです。
川井:そう、連鎖ってことが好きですね。チェーンリアクションですかね。やっぱり、予想外のことが僕は好きなので。茂木健一郎的に言うとセレンディピティなのかわかりませんけども。僕はとにかく計画とか――「川井さんはPDCA早くていいよね」とか言われるけど、PDCAなんて一度も考えたことない。一度も。
小寺:一度も(笑)。
川井:でも、今自分をドライブしてるものがなんなのか。
絶滅メディア博物館が行けると思ったのはなんなのか。それはやっぱりみんなのそういうチェーンリアクションだったり、反応だったり。ある反応を見た時に、この反応はたぶん世界の人も同じだし、広がればこのチェーンリアクションはどんどん大きくなるから、これはいける、というふうに僕はスイッチが入るんですよね。で、それが見えない時は、自分の試行錯誤がこれぐらいで終わって、こう、火がつかない。
タイムラプスも取り組みやすかったから、あの時わりと盛り上がったと思うんですよ。植物に行く人もいるし、自然に行く人もいるし、都市をタイムラプスする人もいるし、自分の作業とか部屋の片付けとかやる人もいるし、幅が広かったから。ああいう多様性に、ある手法が機能する。
今回の絶滅メディア博物館は、「皆さんの家の引き出しや押し入れの中にある、眠ってる絶滅メディア、もしくはもう使ってないものをぜひ寄贈してください」と言ったんですよね。それはもう不用品ですよね。でも、あなたの家にありますよね、それが欲しいんですよ、というね。だから僕は買い取りませんよ、1円も出しませんよみたいな。ある種、寄贈してもらう。でも、あなたの不用品をぜひうちの博物館に並べたい、という。
この言い方がうまくフィットしたから、みんなものすごい貴重なものを、オークション出せば5万円ぐらいになるよ、みたいなものをどんどん持ってきてくれるようになって。Macintosh II ciとか、富士通のFMVとか、どちらかというと青梅のマイコン博物館だよな、というようなものもどんどん来るんですよ。ワープロのOASYSはどうですか、とかね。
この前、俵万智さんがワープロ捨てようという投稿が話題になってて。OASYSの使ってたやつを。俵万智のだったら俺は欲しいぞ!って、一応ね、「欲しいです」って言ったんだけどね、知り合いの人に渡っちゃって。
小寺:そうなんだ(笑)。
川井:でも、「すいません、知り合いの人に渡しました」って、俵万智さんが一応リプライをくれたんですよ。そしたらみんながね、知らない人がそこに、「その知り合いの方が不要になったら絶滅メディア博物館に寄贈したらいいんじゃないですか」とかってリプが上がってて、いやいやすごいな、その知名度すごいな、みたいな。
なんて言うんですかね、お墓なんですよね。ガジェットとかメディアのね。最後のタージ・マハルであり、ピラミッドであり。
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