今日、泣いた。
Just reminiscing about my remote past.
ある映画を観ていて思い出したことがある。
小学校5年生の時、私は教育熱心な母親の期待で、毎日お稽古事とお受験の塾に通っていた。
友達と遊んだ記憶はない。
休み時間もずっと本を読んでいた。
テレビもほとんど見ない私の唯一の娯楽だった。
ある日隣のクラスの転校生だと言う女の子から、ハードカバーのノートを渡された。
キャラクターもので可愛いそのノートは、読んでいる本と同じくらい分厚く、小学生には高価なものだった。
初めて手にした女心をくすぐる可愛さと、何よりその子のキラキラした見た目と笑顔に思わず受け取った。
彼女は全てがお姫様みたいな子だった。
1ページ目は白紙で、めくったページから少しの文字と、下手でも上手でもない絵が描かれた日記。
最後に「どうしてみんなと仲良くしないの?」と言うようなことが書いてあった。
少し挑発的なその一文がなければ、私は返事を書かなかったかもしれない。
次の日、私は行ったこともない隣のクラスにノートを持って行った。
人見知りな私は、時間をかけて彼女を呼んでもらい、ノートを手渡した。
その子はとても大切そうにノートを受け取って「嬉しい!ありがとう!」と教室中に響き渡るような、綺麗な通る声で言った。
恥ずかしさと同時に、私は自分がすごく良いことをしたような気がして、泣きそうになったのを覚えている。
痛くも悲しくもないのに泣きそうになった初めてのことだから、覚えている。
彼女の表現力と、こころを揺さぶる魅力的な声質は本物だった。
少しずつ休むようになっていった彼女は芸能事務所に所属する、子役だったのだ。
そしてまた返ってきたノートには「漢字が多くて、知らない言葉が多かったから、一生懸命読んだ」と書かれていた。
私が絵を描くようになったのは、それがきっかけだった。
私も受験のために休むようになった6年生の秋頃。
テレビドラマにも出るようになっていた彼女と顔を合わせるのは、日記を渡し合う時だけになっていた。
ノートが終わる頃、私たちは卒業した。
私立の進学校に通うことになった私は、それから彼女と会うことは一度もなかった。
そんな彼女は今、何をしているのだろう。
ふとした思いつきだった。
お姫様みたいな綺麗な長い髪と洋服。白い肌と歯が印象的な彼女は、今どんな風に生きているんだろう。
あまり期待せずに検索すると、小劇場で舞台女優をしているという人と名前が一致した。
小さな顔写真を確認して、期待が高まる。
舞台はyoutubeにも上がっていた。
少し鼻にかかる綺麗な声を聞いて、私は彼女だと確信した。
変わらないものが世の中に存在することを知って、私はまた泣きそうになった。
と言うのは嘘で、泣いていた。
あれから。
だいぶ大人になったけれど、この感情を形容する言葉を、私はまだ知らない。
こんな文章をぽつらんぽつらん綴って、誰の目に触れるでもなく、隠し持っていた。
今日、私は、彼女に会いに行く。