夢の国で働いてみて
2024年1月末から6月末までフロリダのウォルトディズニーワールドでキャストとして働いていた。いろんな偶然が重なって得たこのチャンス。帰国した今振り返っても、参加してよかった、あの世界の一員になれてよかったと心から思う。
そもそもめちゃくちゃディズニーが好きという訳ではない。まぁ周りの人に比べたらパークにいった回数は多いかもしれない。でもキャラクターなんて知らないのばっかりだし、グリーティングとか別に興味ないし、アトラクションガチ勢ってわけでもない。
自分がディズニーにハマったきっかけはあるショーを見たからだ。それからディズニーの経営方法とか、マネジメントスタイルとか、ストーリー性とか、設定の方が気になった。この夢の国と言われ続ける場所はどのように作られているのだろうか、どうしてゲストはまた行きたいと思うのだろうか、ディズニーに行こうと言われるだけでハッピーな気持ちになるのはなぜだろうか。あの心動かされたナイトショーは誰がどのようなコンセプトを持って創られているのだろうか、完全に創り上げられたもので人の心を動かし、感動させ、その後何年間もあの瞬間のことを思い出して、語り継がれる。そんな空間を作れるのはなぜだろうか。どうやって。
そんな部分がディズニーに惹かれたきっかけだし、特別キャストになりたいとも思っていなかった。自分が関わりたい部分とは全く別だって。
でも今回、自分がキャストになれる機会が訪れた。しかも一生に一度は行きたいと夢見ていたフロリダのWDWで。いくらキャストに憧れていなかったといえ、シンプルにフロリダに行きたかったし、アメリカでなら、あの世界の一員になってみたかった。同時に自分が興味を持った根本の部分、マネジメントや、ゲストに自分が抱いたような感情を届ける方法を知識として学べるのではないかと。アメリカで働くのが1つの小さい夢でもあったし、NZでのワーホリにも満足してたし、ちょうどよかった。次のチャレンジとして一歩踏み出した。
結論から言うと、ここでは書き足りないくらいの学びと発見があった。プログラムがスタートする最初の日から、そうそう、私がディズニーを好きな理由はこれ、っていうパートが散りばめられていたし、働き始めてからも、日常の些細な部分で、たった一言の会話のラリーで、あぁこれがディズニーか、と、感じる部分ばかりだった。
でも今回は大きく3つ。自分が夢の国で働いてみて気づいたこと、感じたこと、忘れないように書き記しておこうと思う。
利益よりも満足度
私がディズニーで働いて一番初めに、おぉ、なるほどね、と思った部分はここだった。最初のポジションはクイックサービスのレストランで働いていた。簡単に言うとマックみたいな感じで、デーブルにオーダーを取りにいくのではなく、カウンターで注文して、ゲストが自分でフードのトレーを席まで運ぶ。そのカウンター作業と、ゲストが帰った後の机を綺麗にする作業。その他諸々。毎日15Lくらいのスラッシーを作ったりもしていた。
最初の1週間はトレーニング期間だった。何個もポジションがあったけれど、それを1週間で詰め込まれた。半分くらい記憶から飛んでたけど、今まで飲食で働いていたからなんとかなった。その中で何度も言われた言葉、「いかにゲストの満足度を上げられるか」。
普通飲食店で働いていたら、自分のお店の利益を上げようと思うだろう。できるだけ自分のお店にお客さんを呼びたいし、何か1つでも買っていってもらいたい。そう思うはずだ。
けれどディズニーにはそれがない。多分、1つ1つのレストラン単位では利益などそれほど気にしていないのだろう。それよりもパーク全体でいかにお金を落としてもらうのか。そう考えているはずだ。だからこそ、自分達のレストランにゲストを無理に呼び込むことは絶対にない。自分達のレストランに食べたいものがなかったら、どんなものが食べたいのか聞いた上で、それを売っている他のレストランに送る。そこで本当に食べたいものをたべてもらう。そうだから他の飲食店はcompetitorではなくcorporatorなのである。
他にもゲストの満足度を上げるためだったら基本的に何をしても良いと言われている。
あるキッズのゲストが私たちのレストランの前の道でまだ全然残っているアイスを盛大にこぼした。別に私たちのレストランで買ったわけではない。しかも私たちのレストランではアイスを売っていない。けれど、それを見た先輩キャストは代わりになりそうなデザートを持ってきて、無料であげる。それでアイスを落とした悲しみが、違うデザートをサービスでもらった嬉しさに変わるのだ。
アップルジュースをセットにつけてオーダーしたお父さん。一度受け取った後、子供がやっぱりオレンジジュースがいいって言うから交換してくれないかとカウンターに戻ってきた。もちろんオレンジジュースをあげる。さらにその実際に持っていたアップルジュースは捨てないといけない。飲食店で働いたことある人ならわかると思うが、誰かが触ったものを他の人には出せない。普通なら捨てるの覚悟で、アップルを店員が受け取る。しかしここではそのアップルもキープしておいていいよってそのまま返す。誰の手にも行かずに捨てられるよりは、キープしてもらったほうが何倍もいいからだ。そうして申し訳なさそうに交換しにきたゲストは、両方ゲットできてハッピーになる。これだと誰でもフリーで2個貰えちゃうじゃんと思うかもしれないが、そんな部分の損失はきっと気にしていない。もっと何千倍ものお金が1日で動いている。
他にも1ゲストにつき50ドルまでならゲストのために使っていいとされている。例えば、子供がパーク内で買ったジュースをTシャツにこぼした。汚れてベタベタになった、替えもない。そんな時ディズニー社から新しいTシャツを買うためのお金が出るのだ。まぁこれはキャストの配分によるし、本当に助けたいと思ったゲストだけに贈られるものかもしれない。何人ものゲストがわざとこぼしていいTシャツをゲットされるのはよくないから。でも服が汚れて残りの1日のテンションが下がるよりも、新しいのをゲットできた方がいい。
そうやってあらゆる手段を使って、キャストはゲストの満足度をあげるのだ。
その行動に利益が、とか、損失が、とかそんな考えはない。多分もっと上の人は考えているのかもしれないが、1キャストはそんなことは考えなくて良い。それよりも目の前のゲストをどのように楽しませるか、どうやってこの1日を素敵なものにするか、満足度を上げて、また来たいと思わせるかを重要視している。これが今まで働いていた場所にはなかった新しい考え方。
変化に柔軟
ディズニーなんて、あんなに大きな会社だから、もう50年以上パークを運営しているから、大きく物事が変わることなんてそうそうないだろう。そう思うかもしれない。でも実は意外と小さなことでも短期間で変化することがある。それも全部ゲストの需要に応えるためと、キャストの働きやすさのため。
レストランではゲストが手をサッと綺麗にできるアルコール消毒が置いていなかった。手を綺麗にするにはレストラン内のトイレに行くしかなかった。まぁコロナ後アルコール消毒を置く場所は増えたかもしれないが、それ以前は置いてなかった場所が大半だろう。トイレで洗うのも全く不自然ではない。今まで特に聞かれたこともなかった。しかし私が働いていた何故かその週、何人ものゲストがアルコール消毒はないかと聞いてきた。きっと他のキャストも聞いたのだろう。その次か次の週くらいから、レストランにアルコール消毒が設置されるようになった。今まで聞かれていなかったものが、ある日突然聞かれるようになり、その需要に対応し、台を設置する。今までいらなかったから何もしない、ではなく、そうやって素早く行動に起こすのである。
次のポジションで私は1つのショーを運営していた。ポジションの1つとしてスタジオ外の入り口に立ってゲストを迎え入れるものがあった。そのちょうど隣には4体くらいのキャラクターとグリーティングをするフォトスポットがあり、朝から夕方まで、基本的にキャラクターが常時そこにいた。仕事をしながら、そのキャラクターと触れ合う子供たちを見て癒されていた。しかしある日突然、キャラクターが常時いることがなくなった。それまでも30分に1回くらいはバックヤードに戻って他の人と交代していた(夢がないとか言わない)。常にあったかいフロリダ。特に5,6月はもうすでに暑かった。外で行われていたそのグリーティングは、きっとキャラクターにとってもしんどいものだったはずである。多分誰かがずっと外でやるのは大変だと伝えたのだろう。ある日突然、お昼に大幅な休憩が取り入れられた。今まで4体同時に出てきていたキャラクターも2体ずつ入れ替え制になった。でもこうやってゲストのためだけではなく、キャストのことも考えて、キャラクターが登場するスケジュールまで変更するのである。
あるゲストの一言が、あるキャストの一言が、上司に届いて改善される。そんな小さな変化が短期間でいくつも起こっているのだ。今までこうしていたからそのままのやり方でやる、のではなく、新しいやり方がベターだと感じたら、即座にそれを取り入れる。そうやって日々より良いものを創り上げるために動いているのである。
風通しの良すぎる職場環境
同期のキャストメンバーと働き始めた時、トレーナーにトレーニングしてもらった時、その上のコーディネーターと関わった時、さらに上のリーダーとお話しした時、あぁこの人たちがディズニーを創っていると言われたら、本気で納得できるほど素敵な人で溢れていた。まず全員が優しいのはもちろんのこと、全員がゲストのために率先して動く、笑顔を生み出すために自分にできることを全力でする。働いている最中、そんな場面で溢れていた。
さらになんと言っても上司との関係。コーディネーターもリーダーも常に自分達を見守ってくれている安心感があった。監視されているわけではなく、本当に見守られていた。
日本ではなかなか上司に質問しづらい場面が結構あるように感じる。こんなことで質問していいのかな、こんなことも知らない自分やばいなって。そう思い出して結局聞けない場面、自分は結構あった。きっと質問しに行けば丁寧に教えてくれたのかもしれない。けれど聞きづらいと思わせるような雰囲気を持っていたのは確かだ。
一方でディズニーにはそれが全くと言っていいほどなかった。どんな小さなことでもわからなかったら、このトレーナーに聞こう。たまたますぐ近くにいたコーディネーターにこの質問しよう。誰に聞けばいいかわからないけれどリーダーがいたから聞こう。そうやって、上の立場だからといって聞きづらいとかは1ミリもなく、当たり前のように質問を受け入れてくれる環境ができていた。どんなに小さな確認程度の質問をしても、丁寧にわかりやすく、なんなら最初の説明わかりづらかったよね、ごめんね、くらいのテンションで来てくれる。自分の惨めさなんて感じたことがなかった。あるコーティネーターとは仲が良かった。友達のように盛り上がって話していた時、ふと質問が思いついた。あ、ちょっと質問があるんだけど、って言った瞬間、今まで友達フェイスだったのが一瞬で、なんでも答えるよフェイスになって、どうしたの??なんでも言って!と言ってくれるから、こっちとしても、おぉそこまで向き合ってくれるのか、と思ってしまうほど。
それくらいキャストと上司の風通しが良い環境だった。でもこのいい意味で距離感の近いフラットさが、より良いものを生み出す、ゲストに届けるために必要だったのだと感じた。
これら3つがディズニーで働いて、信じられないほど多くのことを学んだ中のごく一部。なんだかんだ今でも印象に残り続けていることだし、自分がまたどこかで働くとしても、こんな環境があったら幸せだなと思うこと。
もう既にプログラムが終わってから、1ヶ月以上が経った。今振り返ると、夢の国で働いた数ヶ月は一瞬で過ぎ去った、夢のような毎日だった。今このタイミングでこんな経験ができて心から良かった。大自然に囲まれるのも大好きだけど、こうやって全てが人の手で作り上げられている世界で生きるのも楽しいなと思った時間だった。多分日本のディズニーで働くことはないし、もう一生ディズニー関係で働くことはないかもしれない。でもきっと、パークに行く度に思い出し続けるだろう。ここで得たことは、夢の一部として一生心の中に残り続ける気がする。
Thank you for letting me become a dream maker, a happiness giver and the part of disney, i cant describe how wonderful my life was there
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