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映画「青春デンデケデケデケ」(1992)

少し前に映画「さびしんぼう」(1985)を観て以来、遅咲きながら大林宣彦作品の魅力にすっかり取り憑かれている私だ。「転校生」だとか「時をかける少女」、最近で言うと「花筐」だとか、代表作はぽつぽつ観ているが「さびしんぼう」は特に、スタジオジブリ各作ばりに心の琴線をガシッと鷲掴みにして離さない。(「さびしんぼう」についてはまた別の記事で書きたいところ)

「もっと大林作品を観たい・・・!観ないといかん!」と武者震いする最中、ありがたいことに目黒シネマで特集上映があったので足を運んできた。「青春デンデケデケデケ」への衝撃的邂逅である。

高校生にあがったばかりの少年「ちっくん」が、ある日突然の電気的啓示(エレクトリック・リベレーション)によりロックに目覚め、バンドを組むために仲間を集め、楽器を買うべくアルバイトに精を出し、試行錯誤練習する場所を探し、3年生の終わりに文化祭という最初で最後の晴れ舞台に立つ。

大きな事件は起こらない。バンドを組むにあたり誰しもぶつかるであろう障壁を一つ一つ乗り越えてゆく様を、じっくり時間をかけ、贅沢に映し出している。「一緒にバンドやろう」と友人を説得する様子も、「バイトをしたいんだ」と親を説得する様子も、ようやく楽器を買うも練習場所が見つからず空き地や神社の境内なんかを点々とする(そして雨が降ってしまったりする)様子も、どれもたまらなく眩しく愛おしい。うまくいかない様がどうしようもなく微笑ましい。

バンド「ロッキング・ホースメン」結成の立役者であり、サイドギターとボーカルを務める藤原竹良(ちっくん)を演じる林泰文さんの笑顔が、とにかく可愛らしくて仕方ない。エレキギターを初めて手にした時の嬉しそうな顔も、演奏を心から楽しむ顔も、どれも死ぬほどピュア。ピュアofピュア。ベンチャーズの「デンデケデケデケ」に出会った当時から少しずつ垢抜けて大人になってゆく過程も絶妙。

メインギターの白井は若かりし浅野忠信なわけですが、尖ったナイフみたいな雰囲気なのに情が厚くて心のあったかさが伝わってくる。(ねえちゃんが楽器を買ってやろうとするが、自分だけ簡単に買ってもらうわけにはいかないので皆とバイトすると言うシーンがあるのだ)

ベースとサイドボーカルの合田冨士男は檀家の息子で学校が終わったらお坊さんとして葬儀へ出向く。一方で恋に悩む男女が多く彼の元に訪れたり、株をやっていたり、物言いも大人以上に大人びていたりと、キャラクターがだいぶ濃い。

見た目の冴えなさをひどくいじられるドラムの岡下だが、作中彼の恋愛をフィーチャーした場面が挟まれる。恋に悩みご飯も喉を通らなくなったり、ロックを聴かないという彼女のために歌謡曲を練習して歌ったり、彼女からの「ごめんなさい」という手紙を見つめたり・・・胸がキュッッッとなるシーンが多かった。

将来はエンジニアを目指すしーさんこと谷口静夫は手作りのアンプをちっくんにあげたり、機械まわりのサポートをしたりと、彼ら「ロッキング・ホースメン」の名誉メンバーとなり活躍する。彼がなぜバンドに協力しようと思ったのかはわからない。けど、練習のためキャンプへ行った日、屋外で思いきり音を出す彼らを見たしーさんが「お前ら、ごっつかっこええのう」と声を漏らすのだ。その素直さというかいじらしさみたいなものにこれまた胸が締め付けられた。

彼らの周りにいる人々も皆魅力的で、彼らの家族も、学校の友人たちも、四国は観音寺の町並みも、全てが愛おしくなってしまった。大林監督が撮る尾道も最高だけど、観音寺も素晴らしい。ちっくんが初めて女の子と海水浴へ行った日の、息が詰まるほどに鮮やかなオレンジ色の夕暮れを忘れられない。

彼ら「ロッキング・ホースメン」の好きなところは、ロックを通じて何か世間に訴えたいことがあるでもなく、反抗精神に突き動かされているわけでもなく、ただ純粋にロックが好きで音を出している、という部分かもしれない。

実際彼らは全くもって不良ではない。バイトするのに学校の許可も親の許可もとる。文化祭前夜に学校に泊まり込みで準備するにも届けは出す。軽音楽部を引退すれば各々家業を継ぐ(ちっくんは大学進学)。何か強い思想があるわけではない、この純粋さが逆に新鮮に感じられて良いし、ただただ微笑ましい。

物語の終わり、東京での大学受験を翌日に控えたちっくんは早朝に家を抜け出し、足が赴くままにロッキング・ホースメンゆかりの地を巡る。もう戻ってはこない日々に思いを馳せるちっくんの背中が寂しくてつらいのだが、家に戻ると彼の友人たちが彼の帰りを待っているのだ。ちっくんを励まし、自分たちの代わりに大学でいろんなものを吸収して来いと背中を押す友人たちが頼もしくて優しくて、ちっくんと一緒になって私も泣きそうになった。友達っていいね。。

ひたすらに眩しくて、一生懸命で、儚いあの時間の再現があまりに巧みで、初見にして私の人生ベストに登り詰めてしまった。子どもも大人も関係なく、令和に生きる私たちには、あれだけ素朴で純粋な時間を過ごすことはできない気がする。だからこそ、この映画の存在を心のどこかに留めておいて、自分だけのオアシスとして残しておきたいと思う。

いまだにこの映画のテーマ曲「青春のモニュメント」が耳に入ると、「生きていてよかった〜!!」と思える。「この作品に出会えて、今日まで生きてきてよかった」と思えるほどの映画を知れたのは、本当に久々のことだ。

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