【ポーランド語記事翻訳】Zaimki.pl ノンバイナリーのためのポーランド語サイト
サイトの制作者たちに話を伺いました。
ポーランド語は英語ほど柔軟ではなく、ノンバイナリー、ジェンダーフルイド、アジェンダーが自身を適切に表現することは難しいように思えるが、本当にそうなのだろうか?パヴェウとアンドレアは、ポーランド語はそれぞれが自分に適した表現を見つけられる、柔軟で変化に富んだ言語であることを証明してくれた。
Queer.pl:サイト作成のきっかけは?
アンドレア:きっかけとなったものはたくさんあったと思います。私自身もノンバイナリーですし、自分の母語より外国語のほうが簡単に自身を表現できることを腹立たしく思っていました。そこでインターネットで言語の非正規的な表記方法について調べ、それらを実際に使用している人たちに話を聞き、それをもとにブログに記事を書きました。この記事では、なぜより中性的なポーランド語表現が(ノンバイナリーの人々にとってだけでなく!)重要なのかを解説し、その解決策としてよく使用されている表現をいくつか表にまとめました。
この活動の次のステップとなったのがzaimki.plです。これは英語のサイトpronoun.isに強く影響を受けていますが、ポーランド語の語形変化の関係上、英語のものよりかなり幅広いものになっています。
次にインスピレーションとなったのはパヴェウによって作成されたノンバイナリーの人物が登場する文学・出版物・刊行物において使用されている語形の一覧です。私たちは共にこの一覧とサイトをつなぎ合わせ、広げていきました。そのおかげで、人々にこういった形の表現は単なる数人の思いつきではなく、幅広く使用されている表現方法なのだと知ってもらえるようになりました。
パヴェウ:私自身が翻訳家として活動している中で(一覧で集めた表現の中には自身が訳した文学作品からの例も含まれています)ノンバイナリーのための表現が必要な場面に直面することが多くなってきています。英語でもスペイン語でも、ノンバイナリーはますます一般的なものとなっているのです。ほかの翻訳家たちも、よくノンバイナリーをどうポーランド語に取り入れたものかと頭を抱えていますが、少し前にアニメシリーズのShe-Raにてノンバイナリーの登場人物Double TroubleがPan (男性に使用される敬称) Kłopotowskiと訳されてしまったり、ノンバイナリーであり、自身の代名詞をtheyとしているサム・スミスに関するニュースでは、ポーランドのメディアは「彼は自身のことを複数形(oni/ich)で表記されることを望んでいる」と書いたものの、それ以外は依然として彼に対して男性代名詞が使用されています。
Queer.pl:人々の反応はどうでしたか?
アンドレア:驚くほどポジティブなものでした!きっと右寄りの人たちの反感を買うだろうと思っていたのですが、実際には「言語が壊された」とか「自分たちで問題を増やしている」といった内容の声がちらほらあっただけでした。中には「誰かが自分のことをvonoだなんて言う為に曽祖父はドイツ人と戦ったのではないだろう」なんて嘆く人もいました。この曽祖父が勝ち取った自由は、ポーランド人が母語を形成する自由ではないみたいですね。
発表から数日の間はこのテーマがツイッターのクィア界隈の外に広く出て行ってはいないようですが、近い将来多くのヘイトが確実に現れてくるでしょう。
それに対して、ポジティブな反応は多くありました。これでやっと一人ひとりに説明せずに、自分の望む形の使用例のリンクを送るだけで済むといって感謝する声もありました。新しい語形の普遍化への一歩だと感謝してくれたり、ノンバイナリーの身内にサイトを送ってくれる人たちもいました。私たちもこのプロジェクトのおかげで、こんなにもバイナリーなポーランド語でも、自身のノンバイナリー性を表現することができるのだと知ることができました。
パヴェウ:同業者である翻訳家の知り合いからもポジティブな反応をもらいました。このような”カンニングシート”はこの先の仕事(特に作者が果敢にノンバイナリーに手を出すファンタジー作品)にきっと役立つでしょうね。まさにポーランド語と英語のノンバイナリーに関して博論を書いているという方からも、反応を頂きました。
Queer.pl:ポーランド語は、伝統的な男女の枠に収まらない人たちが自身を表現できるほど柔軟だと思いますか?
アンドレア:私たちのサイトを見てわかるように、もちろんです!可能性は無限大ですが、何事にも良い点と悪い点があります。例えばいくつかの語形(中性的な三人称単数:onx, on*, on_)などは文面でしか表すことができません。口頭で表現できるほかの語形(ono, oni, one)はすでにポーランド語で別の意味を持ってしまっているので、誤解を招くおそれがあります。
これに対し、サイトに記載されているすべての形はノンバイナリー当事者、作家、翻訳家など、すでに誰かに使用されているという事実がこれらをつなげてくれます。普段こういった人たちと一緒に語られることはあまりないので変な感じもしますが、それも変わっていけばいいなと思います。
パヴェウ:ポーランド語にこのような語形の前例がないというわけではありません。ノンバイナリーの人たちに一人称・二人称中性として使用される語形(byłomやwidziałoś)の中には、稀有な例ではありますが、コンテクストは違えど、アダム・ミツキェヴィチといった古典作品に現れているのです。("Ach, już i w rodzicielskim domu/Byłom złe dziecię" Liryki Lozańskieなど)
中性を表す別の方法として、まったく新しい文法的な性(byłumやwidziałum)があります。これはヤツェク・ドゥカイによってSF小説『完璧な不完全(Perfekcyjna niedoskonałość)』のために作られた表現です。作品内でこの表現は、ポストヒューマン的な、一定した肉体性を失った遠い未来の存在に使用されますが、幸運にもアンドレアのように、今現在ここに存在している、男性とも女性とも言い切れない人たちにフィットしているようです。
Queer.pl:多くのポーランドの人々が大きな問題を抱えてフェミナティヴ(職業名の女性形)の使用によって代名詞に関心が向くようになりましたが、これは変化の兆しだと思われますか?
アンドレア:言葉というものは絶え間なく変わっていくものです。フェミナティヴはかつてポーランド語において一般的なもので、今日のように物議を醸すようなものではありませんでした。今は英語からの借用語を使用することで、問題は少なくなってきていますし、フェミナティヴを使う代わりにその単語を大文字で表記することで、ネット上の議論も減ってきているようです。
言語は変えることの許されない天からの賜りものではありません。むしろ逆に、我々が自分たちの現実を表すために作り出したツールなのです。
その現実の中にノンバイナリーは存在していて、二つの性の選択肢のどちらかを選ぶ必要のない表現が求められている。そんな多くの人たちがそれを作り出したのです。
スタンダードでない代名詞と語形の一般化はきっと簡単ではないでしょう。これらを使用するノンバイナリーの人々は笑いものにされたりヘイトを受けることがきっとあります。でも「psycholożka(精神科女医)なんて変な響きだ」といった主張が実際に”精神科女医”として働く女性たちの数が増えることによって力をなくしていっているように、onu/jenuといった語形もそれを使って自身を呼ぶ人たちが増えることにより、だんだんと人々の耳になじんでいくのだと思います。
これらの語形は作り出されたものですが、すべての言語のすべての単語もまた、同じように作り出されたものです。その普及の障害となるものは、我々の社会と、それを使用するかどうかの決断だけなのです。
パヴェウ:フェミナティヴを再び一般化させていく試みに対しても抵抗があったように(右翼はこれは決して新語法ではなく、伝統的なポーランド語への回帰だと主張しています)ノンバイナリー語形の一般化も一筋縄ではいかないでしょう。しかし、少なくともやってみない限り、うまくいくことはありえません。
他の国や言語の例を見ることも非常に大事なことです(もちろん多くの語形変化のあるポーランド語は他のものより難易度がたかいのですが)。英語はtheyを使用して中性を表現する方法の一般化に成功しており、これはすでに権威ある辞書(アメリカの辞書Merriam-Websterはこれを2019年の今年の単語として発表にしています)にも記載されています。スペイン語でも少し前からこの問題に関する公の議論が広まりつつあります(いまのところスペイン王立アカデミーは所謂この"Languaje inclusivo(包括的言語使用)"を認めてはいませんが)。もちろん、ポーランドにはまだまだ越えていくべき問題が山ほどあります。
Queer.pl:サイト以外の何らかの方法でこの代名詞に関する問題を社会に広めていく展望はありますか?
アンドレア:これはかなり新しい問題ですし、サイトも2週間前に作成して公開したばかりなので、今はとりあえずサイトのほうに集中したいと思います。ですが今後何らかのアイデアがきっとでてくるはずです。
Zaimki.pl: powstała strona ułatwiająca dostosowanie języka polskiego osobom niebinarnym (2020年7月28日) (https://queer.pl/artykul/204685/zaimkipl-strona-jezyk-polski-niebinarnosc)