「わけがわからない」が最強の瞬間がある。
大学生の頃、仲間うちで『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が流行った時期があった。観た後に必ず鬱々とした気持ちになる映画として。確かにその通りだったのだが、それからしばらくして観た『ウルトラミラクルラブストーリー』のほうが、私はかなり鬱々とした気持ちにさせられた。「欝映画」のベストワンを挙げるとしたら、個人的にこれを超える映画はないと思っている。
最近読んだ『コンビニ人間』にも似たものを感じた。この後味はどこかで覚えがある、と思ったら『ウルトラミラクルラブストーリー』を観た後の理由の分からない鬱々とした気持ちと同じなのだった。
両者の共通点は何だろう?と考えた時、なんとなく思いついたのは「主人公は自覚がないけれども社会的に全く救われない存在である」ということ、そして「ハッピーエンドなんだかバッドエンドなんだか判断し難い訳の分からなさ」だった。
どちらの作品も、主人公は「普通の人」ではない。彼らについて、自由で何物にもとらわれない存在で羨ましいと思う人もいれば、どこまでも救われる気配がなくてかわいそうだと思う人もいるだろう。彼らが根本的には何も変わらず迎える結末について、希望を感じる人もいれば絶望を感じる人もいるだろう。
つまり、人によって感じ方が真逆になりうる「わけのわからなさ」をもった作品なのだ。私はどちらも後者の立場だから、鬱々とした気持ちにさせられる。そして、その根源にあるのが「わけのわからなさ」だから、解決できないことに怖れを感じる。怖がらせることを念頭に置いたホラーよりも、意図が見えない、わけのわからない作品のほうが強大な力を持っていて、時にはものすごく怖いのだ。
ちなみに、仲間うちのある一人は『ウルトラミラクルラブストーリー』をすごく良い映画だと言って絶賛していた。彼は私とは違い、ハッピーエンドとしてあの映画をとらえたのかもしれない。ただ麻生久美子が可愛いというだけだった可能性もなくはない。