とある友人の話
早くも2回目の投稿です。今回は僕の友人について話そうと思います。
コミュニケーション能力の乏しい僕は友達が限りなく少ないです。片手で数えるほどです。その中でも、遠慮なくありのままの自分をさらけ出せるような「親友」と呼べる人間が1人だけいます。すごく変わった人間です。今日はその人についてお話しします。
僕と幼なじみのその人は、今東京で一人暮らしをしています。職業ですか?無職です。彼は週一回映画館でアルバイトをしています。
しかし彼には大きな夢があります。それは「役者」になることです。高校では演劇部に所属し、卒業後は東京へ移り、有名な大学の映画学科へと進学しました。今もなおその大きな夢に向かって奮闘しています。
奮闘?いや、彼は奮闘なんかしていません。彼は生まれてこの方「努力」というものをしたことがありません。毎日、親の金で住んでいる小綺麗な広いマンションでのんびりとした日々を送っています。
でも彼は成功しなくても生きていけるのです。なぜなら、彼の実家はものすごくお金持ちです。父親は医者。母親は日本を代表する有名建築家の一族で、超がつくほどの大金持ちです。余談ですが、彼の母方のひいおじいちゃんは、「食べ過ぎ」で亡くなったそうです。
「食べ過ぎ」って何?
死因が「食べ過ぎ」とかあんの?
金持ちならではの死因です。そんなお金持ちの家に生まれた彼は、日々親の金で美味しいものを食べ、バイト仲間と飲みに行き、風俗に行き、好きな子と野球観戦をし、風俗に行き、風俗嬢のブログをチェックし、歯を磨き、そしてまた風俗へと向かっているのです。
僕はそんな彼が心配でなりません。人のことを心配してる場合ではないのですが。もし親が死んだら? 彼は「遺産がたんまりあるから大丈夫」と言っています。しかし彼には優秀なお兄さんがいます。こんなプー太郎いつ親に見捨てられるか分かりません。
不思議なことに彼は役者として爆売れすることを確信しています。どこからそんな自信が湧いてくるのでしょうか。彼曰く清涼飲料水のCMに出るみたいです。ボケじゃなく本気で言っているのが僕はすごく恐怖です。元千葉ロッテのベニーみたいな顔をしたイモくさい青年を起用するスポンサーなんていません。
ほんでそもそも何で役者やねん。
いや、彼の夢を否定するつもりは全くありません。僕は彼が演技をしている姿を一度だけ見たことがあります。
中3の文化祭の時です。僕と彼は生徒会に所属していました。毎年文化祭では生徒会のメンバーがちょっとした寸劇を披露するのが伝統でした。僕は恥ずかしかったのでその劇には出演しませんでした。全然おもろない女子生徒が書いた脚本でお芝居をするのはさすがに嫌でしたので。
しかし彼は進んで出演しました。若干引きました。劇の内容は一切覚えてないです。記憶から消し去りました。彼はいわゆる「ツッコミ」役で、ハリセンを片手に場を回していました。僕は控え室のモニターで劇を見ていました。
他の出演者が舞台に上がってきます。ここでひとボケ。
「カランコロンカラーン」
「き、喫茶店か!!!!」
彼のマンキンのツッコミが響きます。
時が止まりました。
僕は、同じく控え室で見ていた友人と思わず顔を合わせました。凍りつく会場。隣の琵琶湖の波のせせらぎすら聞こえてきそうなほどの静寂でした。寒い台本と棒読みツッコミのダブルパンチです。
その後の展開は本人すら覚えていません。とにかくズタズタのグダグダでした。
この話をする度に、彼は「いやめちゃくちゃウケてたわ」と本気の顔で言います。どうやら人間の脳は、スベりすぎると記憶を書き換えてしまうようです。
彼が「役者になりたい」と言いだしたのはこの文化祭の直後のことでした。私ならトラウマになっているところですが、彼は違ったみたいです。
ね?変な人でしょ?
彼に関するエピソードは尽きません。また今度の機会にします。